ハイビスカスの幕開け
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新首都東京 第五階層 ライジングゼロ社新東京支部 2045年4月15日 大安 「ねえ、円香」 私はモニタリングで忙しいのだが、トーカティブが話しかけてくる。ヘッドホンを離す。 「なに、私は忙しいんだけど」 「課長~助けてください~!!」 私は仕事に詰まり黒鎧課長に助けを求めた。にゃんにゃんの捜索なのだがGPSで探っても第三層以下には届かないのだ。 「ああ? これは下の階層に逃げ込んだ奴だな……お前には第二層は気が重いな、うちの強面な連中に任せるか」 月影さんに呼び止められ振り向く。 「 何か言われた気がするがよく聞こえなかった。 「お母さんが言うには"つまらないこと"らしいけど……お母さんは基本的にドライだからなぁ」 月影さんははぐらかす。どうしたんだろう? 「お前ら、そろそろ出動だ。大統領が到着する」 今日は休日だけど、大統領が首相と会談するというので休み返上で警備にあたることになった。しかし、爆破テロを行うなら格好の機会だ、絶対に捕まえないと。 新首都東京 第七階層 新東京空港 2045年4月15日 大安
私達が到着する頃には重装備の人達が一杯いてガヤガヤしている。大統領見えるかな? 「重いよこの装備!」 防弾ジャケット、 「我慢するんだな、お前みたいなちっこい体に合うサイズはそれしかなかったんだから、ほらちゃんと持つ!」 月影さんはいつものツインテールを外してヘルメットをかぶっている。紫髪だからすぐ見つけられるし、迷う心配はなさそうだ。 そうしてついていくと段々人気がなくなってよくわからない場所にたどり着く。 「しまった、迷ったわ」 月影さんは振り向いて私の方に目線を合わせて笑顔になる。 「あら、三波。一緒にいたのね」 月影さんは両手をわきわきさせながらにやけた顔になり私の肩を掴む。 「三波、悪い大人についていったら駄目だよ? 食べられちゃうぞー?」 目を逸らすと椅子に座っていったご老人が紙袋を置いたまま廊下の曲がり角を曲がっていく。 「あの! 忘れものですよ!」 老人は声に反応することなく消えてしまう。 「誰かいたの?」 月影さんが肩から手を離し曲がり角を見て、首を振る。誰もいないらしい。 「とりあえず、忘れ物を確認しましょう」 私は合いの手を入れて二人で紙袋を開ける。 「うっ!?」 そこには……デジタル表記でカウントダウンするカウンター、沢山の配線を通してそして何か積まれている。つまり、時限爆弾だ。 <<月影! 三波! お前ら今どこにいる!>> 時間は残り三分、さっきいた場所から歩いたのは十分近くだ。走っても間に合うか怪しいが…… <<クソッ! 遠すぎる、お前たちだけでも逃げるんだ!>> 私はまずできるかどうか確認する。 「 ……何も起きない、だめか。 「地獄の再演を……?」 ディスプレイには月影さんが出したドライバーを受け取ると、蓋を開けるためにドライバーを使う。開けた先には色とりどりの沢山の配線と、配線に巻かれたタグがたくさん。タグにはE F I O Rが一つずつ、そしてNが二つ。 「??? このアルファベットに意味はあるのかな……」 私の問いに月影さんが答える。 「多分あるだろうね、もし失敗して指定の場所以外で起動したときに自分が解除しやすいようにつけた目印なんだと思う」 刻一刻と時間が過ぎていく。 「 突然ウルフから通信が入る。 <<コールもなしに通信しないでよ、大体なんでわかったの>> 私は赤のI 橙のN 黄色のF 緑のE 青のR 藍のN 紫のOの順番に切っていく。そうすると、カウントダウンが十倍速になる。 「えっ、なんで!?」 零。 「――――――――――ッ!!」 私は顔を腕でガードしようとする。 なにも、起こらなかった。 「えっ、えっ?」 カウンターを持ち上げると、爆弾と完全に離れていた。どうやら七本の線だけで引火装置とつながっていたようだ。 緊張が解け、地面に倒れこむ。 「終わった~……」 私は月影さんの視線の先を見る。さっきの老人が様子を見に来ていたのだ。 「やけに早く信号が途切れたと思ったら貴様ら、私の爆弾を……ッ!!」 私が立ち上がるよりも先に月影さんはスタンロッドに電源を入れながら老人に向かって投げる。 「イギィ!!」 老人は倒れこむ。 「観念なさい」 私は突然出てきた単語に戸惑う。月影さんに言う。 「蛇腹って?」 腑に落ちないが立ち上がって老人に向き直る。 「なんでこんなことしたんですか」 倒れこんだ老人が答える。 「この世界の住人は生まれながらにして死んでいる、奴らは生まれながらにして空っぽだ。事件が起こるときに群がる民衆を見たことがあるか? 薄っぺらい奴らだと思わないか?」 私は別に馬鹿にされてもいいけど、お母さんを馬鹿にするのは許せない。 「お前らは人型戦争を知らないだろうなぁ? あそこには価値のある死だけがあった! 顔が美しく、そして体をバラバラにされた人型達を見て、フフフ……私は劣情を隠せなかったよ!」 き、気持ち悪い。 「つまり、こうね。アンタはあの戦争の中にいて、その地獄が気に入っただから地獄の再演をしようとしていたんだ。自分には意味のある死をあんたの言う価値のない人間に与えてやろうって算段で!」 私は怒りで震える。 「そんなことさせない!」
「何故だ!?」 私は通信機の音量を上げる。 <<悪いけどお前が持ってきた爆弾は全て電子破壊させてもらった>> 月影さんが手錠をかけた頃には黒鎧課長達が到着していた。 「ひどいよお母さん! 私が頑張らなくてもよかったじゃん!」 会話していると黒鎧課長が笑いながら話しかけてくる。 「お前ら大手柄だな、迷子になったのはいただけねえが……一応報告書書いておけよ」 月影さんは気だるげに、私は元気よく応えた。 「そうだ、帰ったら二人でパフェを食べに行かない?」 パフェ!! 「えっ、いいの!? やったあ!」 黒鎧課長がため息をつきながらぼやく 「お前らといると娘を思い出して調子狂うよ全く……」 新首都東京 第五階層 ライジングゼロ社新東京支部 2045年4月15日 大安 <<ウルフ、ご苦労だった、帰還して良い>> |
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2020/04/28 2020/06/02:サイト掲載 |