ハイビスカスの幕開け
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新首都東京 第五階層 ライジングゼロ社新東京支部 2045年4月20日 赤口 「会議疲れたぁ……」 今日は私が事件を解決した連続窃盗事件の報告で豪く緊張してしまった。 「おう、お前ら。いいプレゼンだったぞ」 黒鎧課長の称賛を月影さんがだるい感じで返答する。 「 そういえば顔中包帯だらけの人をちょくちょく見る。 「まったくうちの課を何でも相談屋みたいな扱いしやがって、おかげで仕事が進まない」 それにしても、先日のパフェは最高だった。また食べたいなぁ……。 「おい、三波。涎が出てるぞ」 いかんいかん。 「まったく、先が思いやられる……」 そうしていると私の机の電話が鳴る。私が取るより先に黒鎧課長が先に取ってしまう。 「あっ」 どうやら空港でまた事件が起きたようだ。災難過ぎない? 「オペレーターから連絡があった、新東京空港でハイジャックだ! 装備は有事に対応できるように最高のものを用意しろ、出動だ!!」 私達は更衣室に向かい、即座に着こむ。 新首都東京 第七階層 新東京空港滑走路 2045年4月20日 赤口 無限に思える時間が過ぎ、つい五日ぶりに来たばかりの空港に舞い戻ってきた。尤も、今回は滑走路だけど。 「チッ、何が狙いだ……こちらの応答に全く応じねえぞ」 そうだ、規則に書いてあった。犯人とは取引に応じない。汚職を防ぐためだ。だけど、それで救われない命があっていいんだろうか? 一時間経過。犯人の動きはない。私は音を上げる。 「いつまでもピリピリしてられないよ」 そうすると突然旅客機の扉が弾き飛ばされ、中から何人か出てくる。装甲、人工皮膚……人間にしては規格外の兵装……。 「まずい、強化兵だ! 退散!!」 ただのサイボーグじゃない、強化兵だ。とてもじゃないけど生身で戦える相手じゃない。 「テロリストの規模じゃないぞ! うちの強化兵を呼べ!!」 誰かが答える。 「最低でも三十分かかります!」 皆が一目散に背を向けずに距離を離していく。 <<狙撃失敗! 強化兵にはこいつは当たりません!>> 足が震えている。どうして逃げないのか、私にもわからない。でも、このままだと人質がどうなるかは目に見えている。私は人質を見捨てるなんてことはできない。勝算がなければこんなことはしないと思う。つまり、勝算がある。 「おい、子供が相手だぜ」 強化兵の一人が片手で対物ライフルを構える。 「いっちまいなあ!」 私は自分にできることをしよう。 「 強化兵たちが持っていた対物ライフルにロックがかかり、引き金が引けなくなる。 「どういうことだ!?」 慌てている強化兵たちにアサルトライフル! 「おらー!!」 だが装甲に弾かれ、大したダメージを受けていない。 「そんな豆鉄砲が効くかよ!」 やはり、この手は通用しないか。アサルトライフルを捨て、ジャケットも捨てる。 「はは、馬鹿にしてるぜこいつ!」 私は跳躍し太陽を背にして飛行機の上に立つ。 「立ったままあれだけの跳躍を!?」 強化兵たちもロックがかかった対物ライフルを捨て、跳躍して飛行機の上に立つ。 「鬼ごっこはおしまいだお嬢ちゃん!」 強化兵達は高周波ブレードを抜刀し、私に向かってくる。私はすんでのところで躱し、高周波ブレードに触れる。これは……使える。 「 強化兵たちが持っていたブレードはひとりでに浮き出し、私の周りを回る。 「どうなってやがる、クソッ、武器がもうねえぞ」 三人同時に殴りかかってくる。私は高周波ブレードで受け止め、力の押し合いになる。 「ぐぬぬぬぬぬ……」 三人がかりで押し込められて分が悪い、だけど足が止まった。 <<狙撃班はまだいますか!>> サイレンサーをつけていたのか、発射音は聞こえない。ただ一人が狙撃によって体を撃ち抜かれ、飛行機から転げ落ちる。 「クソッ、これが狙いだったのか! 避けろ兄弟!」 狙撃は正確だが、強化兵たちは弾道を見ながら避けることが出来てしまう。反応スピードが違いすぎる。だけど隙が出来た。 「クソッ! やられちまった!」 黒い液体が流れだす、あの人達の力の源だ。 「この野郎!」 私に殴りかかるがその前に狙撃班が体を撃ち抜く。 「畜生……」 耳につんざく声が私がまだ生きていることを実感させてくれた。 「動くな!」 しまった、まだ一人いたのか! 破壊された搭乗口を見ると乗客を掴んで盾にしながら強化兵が出てくる。 「お前ら、動くんじゃねえぞ、俺たちの反応速度はわかってるはずだ、銃を撃てばこいつを殺す!」 誰の事なんだ? 近くにいる? 「ここにいるよ!」 聞きなれた声が聞こえてくる。 「ああ、あんたか。月影アトラ」 えっ? 「どうしてですか! 月影さん!」 スロープを登り、月影さんが機内に入っていく。 「 そして、貨物室の扉が開いたと思うと一機の小型飛行機らしき物体が貨物室から勢いよく飛び出して我が物顔で飛び去って行く。 「月影さん!」 強化兵といっしょに連れられて行く月影さんの顔には憂いを帯びた顔が見えた。 新首都東京 第五階層 ライジングゼロ社新東京支部 2045年4月20日 赤口 ハイジャックが収束し、帰還した私は、会議室に自分と黒鎧課長だけの二人きりで処分を待つことになった。 「強化兵三人を無力化し拘束、人質は全員無事、結果的にはよかったが……」 私が一人で行っても社は何も責任を持たない、独断の行動だ、ということになるのかな。 「じゃあお前はもう帰れ、ああそれと」 そういって私に拳銃と弾丸をくれる。 「無駄遣いするんじゃねえぞ」 私は拳銃をしまい、会社を後にする。 「はぁ……やれやれ、第二層に行くメンバーを選出するか……」 新首都東京 第二階層 ??? 2045年4月20日 赤口 「帰ったか、アトラ」 「朱雀山三波……次の目標はこいつだな」 |
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2020/04/29 2020/06/03:サイト掲載 |