新首都東京 第二階層 商社ビル跡 2045年4月24日 仏滅
ビルの裏口から入った私達は、向こう側がなんか騒がしいのに気づく。
「なんか騒がしいような?」 「三波、どうやら表門の方で機動兵器が暴走しているようだ。そのためサイボーグたちが迎撃に出ている」 「そっか、グッドタイミングだし、今のうちに侵入しちゃおう」
ビルは表も裏にもロビーがある結構大きいビルで、ガラスケースには銃火器が並んでいる。武器供給会社のビルだったのかな? ガラス張りの門から堂々と入ったのに警備らしい人はいなかった。いや、警備は全て表の機動兵器に回されているのだろう。どんな機動兵器が出たんだろう。気になる気持ちを抑えて、今目の前にいるサイボーグに注力する。 態々待っていたということは私が来るのは既に想定済みだったのだろう。
「待っていたわよ、朱雀山三波ちゃん?」
背中に大きなものを背負っていて、上の二本の腕は腕組みして、下の二本の腕は下げている。四本腕のサイボーグだ。そして何より、顔のバイザーには沢山のセンサーが付いていて昆虫の目みたいだ。
「私は緑上銃奈!何でここにいるかは、お嬢ちゃんもよくわかってるんじゃない?」
緑上銃奈、聞いたことがある。人型戦争に従軍し、戦後に60件の連続強盗殺人事件で国際指名手配になっていたA級犯罪者だ。一月に一度夜に現れ拉致監禁し、拷問の末殺して死体を朝にゴミ捨て場に捨てるという極悪非道の手口でありながら、何故か一度も証拠を挙げられずに警察課が総力を挙げて探していたエリュシオン社製の強化兵だ。まさかこんなところにいたなんて。でも第二層は悪党の街だ。悪党を隠すなら悪党の中という訳かな。
「目的は違ったけど、運がいいな三波、ここで指名手配犯を捕まえられるなんて」 「捕まえる? 私を? 冗談は頭だけにしなさい?」 「貴方の犯罪は知ってるよ、誘拐して拷問して財産を根こそぎ奪い搾取する最低野郎だって」 「搾取、良い響きだねえ。お前だって他人を蹴落として生きてきたんだろう? お前が今の地位に着くために一体何人の人間が犠牲になってきた?」
ウルフが反論する。
「詭弁だな。それで自らの行動が正当化されるのか」 「私だって好きで生存競争をやっていたわけじゃないんだよ、殺さなければ殺される。そんな世界で生きてきた」 「戦争が終わった後、エリュシオン社は私達を捨てた! 私という兵器は用済みになったんだよ! 私はわかった、こんな世界で生きていくのにこの身体じゃ平和すら享受できないのかと! いいかい三波、人間の意志は周囲の環境から作られる。つまり、あんたが自分で考えたって言葉や思いも周囲に影響された結果生じたに過ぎない!」 「私は自分で考えて行動してる! 私は誰のものでもない!」 「自分なんてものが本当にあると信じているのかしら!? 所詮はお前は周りにいた人たちに影響されてその人間の意志に近づいているだけ、そしてお前も誰かを影響して他人を形作っていく。だけど、残念だねぇ? お前の意志はここで儚く散る。踏みにじられた一輪の曲がり花のように!」
銃奈は背中の武器を展開し、それぞれの手で持つ。ガトリングガンだ。更にまだ背中には武器があるようだ。
「三波、言い返せないか」 「ううん、この人は自分が出来ると思い込んだから人を殺した、戦争で物を殺す快感に中てられて自分は上に立つ人間だと勘違いしたんだよ。だから戦争が終わっても人を殺し続けた。ただ生きるために殺すんだったら拷問なんてする必要なんかない。戦争は今もどこかで起きている。そこに参加もしないで平和になった世界でただ殺しをやってるだけの臆病者だ!」 「朱雀山三波――――――ッ!」 「私は貴女に共感しない、でも礼だけは言わせて。貴女を殺すことに躊躇はいらなくなった。兵器として、貴女に攻撃する」
私は初めて人を殺す、兵器に戻る時だ。銃奈がほほ笑む。
「うれしいねぇ? アンタも結局人殺しだってことが」 「私が保証しよう、彼女は一人も殺していない」 「処女航海ってわけかい! それじゃあその処女を頂くとするよ!」 「ウルフ、下がって。巻き込まれるから」 「ふむ」
ウルフは今なにも装備していない。緊急時以外で武装するのは条例違反だからだ。言われたとおりにウルフはロビーから出る。 私は槍を構える。正直どう使えばいいかわからない上にぶっつけ本番だけど、学んできたことを生かせばなんとかなるはず……!
「その槍……槍兵の要塞!? まずい…ッ!」 「何がまずいわけ? 戦争は誰も待ってはくれないよ!」
私はまず牽制に拳銃を一発、銃奈の頭に正確に撃つ。反動で吹き飛びそうになるが、ぐっとこらえる。
「正確だ、だがそれ故に読みやすい!」
当然強化兵の反応スピードで避けられるが、その隙に跳躍して近づく。 横薙ぎをするが当然頭を後ろに逸らして回避してくる。 私の事をガトリングガンで振り払い、そのまま吹き飛ばす。
「終わりだよ!」
四門のガトリングガンで狙い、一斉掃射してくる。 私は即座に態勢を整え、横に向かって走る。 銃奈に向かってジグザグに跳躍し、心臓の位置に向かって一突きする。 しかしガトリングの一つを盾にされ、攻撃は本体に届かない。 即座に薙ぎ払ってガトリングを両断し、距離を取る。 もう一度横に走り、ガトリングに向かって徐々に距離を詰めていく。
「こなくそッ! すばしっこい奴! 搾取させろッ!」
拳銃をしまい、ロビーの椅子を取って銃奈に向けて投げる。そしてそのすぐ後ろについて跳躍する。銃奈は椅子を振り払うが、私の振りかぶった槍の射程に入る。 しかし、ガトリングで防御される。私は槍を振り下ろし、ガトリングガン二つを両断する。
「ちっ、切られちまったかい、なら!」
銃奈はガラスケースまで跳躍してガラスケースを手で粉砕し、その中からスティンガーらしきものと対物ライフルを取り出す。
「お嬢ちゃん相手には過ぎた代物かもしれないけど、容赦しない!」
片手で対物ライフルを撃ち、更にミサイルも迫ってくる。 私は上に跳躍するが、ミサイルは誘導してこちらに向かってくる。 槍を投げ、爆発させる。爆発は槍によって切り裂かれ、槍は傷一つなく床に刺さる。 着地し、槍を取る。熱い、だけどこの位の痛みは気にしない。 銃奈は用済みになったものを捨てて、次のを取り出そうとする。
「飛翔!」
銃奈の頭に向かって槍を投げる。
「遅い!」
銃奈は頭を横に振り槍を避ける。だけど敵のまさかだと思った瞬間がこちらの有利になる! 私は銃奈の後ろで槍を約三百度程回転させ銃奈の心臓があるであろう位置を貫く。
「ば……かな……」
私は銃奈の後ろまで走り、刺さった槍を持ち、上に切り裂く。 そして首を斬り、完全に行動不能にする。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
端末に非通知の通話が来る。私は応答すると、銃奈の声だった。
<<私の負けか……流石はライジングゼロの機密兵器……>> 「貴女の意志も、ここで終わり」 <<いや……私の意志は……引き継がれた……強者が弱者を搾取する……>> 「私は、貴方みたいにはならない。月影アトラはどこ!?」 <<ふっ、このビルは私がいなくなったことで自爆する……>> 「なっ!」 <<このビルのどこかに、月影の娘はいる……探せるもんなら、探してみな……>>
「ウルフ!」 「終わったか、柱についていたのを見たが爆弾はあと五分で起爆する」 「急がないと……! 生体反応って検知できないの?」 「焦るな、レーダーをサーモグラフィモードに切り替える」
早く、早くしないと。
「見つけた。このビルの十階、つまり一番の上の階だ、エレベーターが近い」 「よし行こう、エレベーターだね!」
エレベーターを見るがどれも使えない。電源まで落とされてしまったようだ。
「ウルフ! 階段は!?」 「こっちだ、ついてこい」
私はウルフについていき、階段を登り始める。 アトラにあったらなんて話そう、辿り着いてから脱出するまでに言える言葉って何だろう。私には小細工が出来るような性格じゃない。いつだって真っ直ぐ言ってきた。だったら、私は直球勝負で行くだけだ! 息が苦しくなる、戦闘で散々走り回った後に一気に駆け上がるのはさすがにキツい。
「た、辿り着いた……ッ!」
ドアを開けるとそこにはいかにもな防弾ガラスで囲われた空間があって、そこにボロボロの服を着て、足に重りをつけられたアトラがいた。
「どうしてここに来たの!」
アトラは嬉しそうに言う。 私は色々考えたけど、幾千の言葉よりも誤解なく伝わる言葉を。
「勿論、アトラが好きだから!」
アトラも言った私も赤くなる。 ウルフは静観している。
「ずっとに一緒にいたい、もっとアトラのことが知りたい、一緒にこの街を抜け出そう!」
「でもここにも爆弾がある、もう時間はないし、どうするつもりなの!?」
私はガラスを槍で切り裂き、アトラが脱出できるだけの穴を作る。
「私にいい考えがある!」
アトラの脚の鎖を槍で切り、自由にする。 そして槍を背中に背負い、アトラの手を引っ張る。
「どうするの?」
アトラを連れてビルの窓を開け、アトラをお姫様抱っこして飛び降りる。ウルフも続いて飛び降りる。 着地する。足に物凄い衝撃がかかるけど踏ん張る。ウルフは軽やかに着地する。 降りた先に日常の守護者が置かれていた。
「いつの間に?」 「戦闘している間に呼び出しておいた。早く乗らないとこのビルは爆発するぞ」
私はヘルメットをかぶり、アトラにも渡す。
「さ、行こうよアトラ」 「うん」
バイクがビルから離れるとついさっきまでいたビルは彼方此方で爆発して崩れていった。 第二層から高速道路に乗り、帰路につく。
「父を敵にまわしちゃったけど……どうするの?」 「考えてない! その時考えるよ!」 「えっ……」 「気にするな、三波はそういう奴なんだ。長所で短所だが」 「短所は余計でしょ」 「考えなしに裏社会に喧嘩を売ったの!?」 「うん? だって三波はアトラが好きだから」 「~~~ッッッ!!!」 「それよりも、風が気持ちいいよ。良い風~」 「そうね……良い風。 」 「何か言ったー?」 「ううん、何でもないよ」
アトラに抱きしめられ、柔らかい体の感触を確かめながら、どんどん上の階層に行く。
「みて、地平線が綺麗」
そこには一条の光が私達を照らしていた。まるで私達の旅路を応援するかのようだ。
「さあ、帰ろう。我が家へ」
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