ハイビスカスの幕開け 
第6話 糸は誰が引いた?

新首都東京 第五階層 新朱雀山円香宅 2045年4月25日 大安


 アトラと一緒に帰った夕方、私は安堵感で火傷、飛び降りた時の衝撃、疲労が同時に襲い掛かって家に帰るなり倒れこんでしまった。次の起きたのは翌日の朝で、起きたときにはベッドの横でアトラが座って寝ていた。
 夢じゃなかったと思うのと同時に、両手が包帯で巻かれているのに気づく。爆発に巻き込まれた槍を素手で掴んだから火傷していたのだ。
 すぐに職場に復帰するのは難しいかな。
 置手紙が横のテーブルに置かれていて、アトラを起こさないように手紙を取る。

 "怪我の事は上司に伝えておいた、今は半月安静にしなさい。"

 私は布団から出て顔を洗いに行く。

「髪の毛気持ち悪い……シャワーも浴びよう……」

 軽くシャワーを浴び、服も着替える。


「ウルフ」

 呼びかけると、端末が通話状態になる。

<<起きたか>>
「うん、あの時追手はいた?」
<<居なかったな。態々強化兵を呼んだ上で脅迫した割にはあっさりだ>>

 欲しいものは既に手に入ったのかな。

「もう用済みになったのかな。自分の娘なのに酷いや」
<<ふむ、これからどうするつもりだ>>
「これから考えるー、このアパートを特定するならもうしてるだろうし、攻撃してくるならもうしてる筈。それが出来ないってことは証拠を残すのが嫌なんだと思う」
<<考えてないようで考えてるのか>>
「なにその言い草、三波怒るよ?」
<<軽率だった。仕事に復帰できるのは五月になりそうだが>>
「分かった。それまで安静にしてるよ」
<<どうだろうな、お前はじっとしてられない性分だ>>
「じゃあコツコツ人助けしながら過ごしてるよ」
<<ふむ>>

 そういうと通話が切れる。


「おはよう三波、起きたらベッドにいなくてビックリしたわ」

 洗面所から出ると、リビングにはアトラがいた。

「あはは、ごめんね」
「ほら、朝ご飯作ったよ。昨日この冷蔵庫見たとき驚いた、何もないなんて」
「まだ来て一か月も経ってないし、私達外で摂ることが多いから」
「……料理できないの?」

 痛い所突かれた。

「いやー……昔はできたんだけど……お母さんも私も忙しくて……」
「食生活が心配になりそうね……」

 椅子に座り、前に出された料理に手を付ける前に手を合わせる。

「いただきます」

 食パンにハムエッグ、典型的な朝食だ。でも今は一人で食べていない、目の前にアトラがいる。私はそれだけでも嬉しい。

「第二層でのビル爆破事件は現在ライジングゼロ社が調査しておりますが、第二層の調査は難航しております……」

 ニュースは昨日の件で持ちきりだ。私は話を持ち掛ける。

「昨日さ」
「ん?」
「お父さんに会ったんでしょ? お父さんってどんな人なの? 私お父さんいないからさ」
「……昔は良い人だったよ今ではどうしようもないクズに見下げ果ててるよ
「そっか、何かされなかった?」
「脳の情報を一部見られたのと、目を写真で取られたかな」
「何がしたかったんだろう……」

 その答えがわからないまま、半月の時間を費やすことになる。


新首都東京 第五階層 ライジングゼロ社新東京支部 2045年5月12日 仏滅

「おう、お前ら今日がその日だったか」

 謹慎期間が終わった私達は一緒に出社した。

「お前、期間中なにしてたんだ?」
「はい、落とし物を拾って届けたり、ゴミ拾いをしたり、障碍のある方を手伝ったりしていました!」
「ボランティア活動か……最近聞かなくなって久しいな」
「そうなんですか?」
「他人に干渉しない社会になって随分経つし、何よりリスクの方が大きいからな、特に第三層以下だと」
「そうなんですか……」

 そんな中、黒鎧課長の電話が鳴る。

「もしもし? 何? UFO? うちはオカルト研究所じゃねえんだぞ」

 UFO?

「ああ、ああ、わかった」

 課長が電話を切ると手を叩き皆の手を止める。

「皆聞け、未確認飛行物体が第七層の空を悠々と飛んでいるという情報が入った。数は不明だがCDEサイバネティックダークネスエレクトロニクス社製の航空機が飛んでいるとの情報があった」

 社員の一人が手を挙げる。

「どうした」
CDEサイバネティックダークネスエレクトロニクス社と交戦する可能性がありますが、企業問題になりませんか?」
「構わん、条例を無視して飛んでいるのはあちらもわかっている筈だ、よし、トーカティブを呼べ、開発中の新型機を出すぞ」
<<呼びましたね!!>>
「ああ、呼んだぞ」

 私の端末が通話状態になる。

「えっ、何も触ってないんだけど……」
「三波の端末、色んな人がかけてくるね」
<<今回紹介する兵器はこちら! 第五世代ステルス多用途戦闘機F-23D"臆さぬ蜘蛛女アラクネ"です! 実験機であった前継機から改良しライセンス生産にこぎつけました! 対地対空対艦ミサイルを搭載できるように改良し、ステルス性を削げば兵器搭載ステーションを増やし通常の四倍近い兵器搭載量を可能にする通称"ビーストモード"も出来ます!>>

 私は一つ疑問に思った。

「あれ? ビーストモードは制空権が取れている状態に運用するものだよね。トーカティブ、今回はビーストモードにするの?」
<<ええ、今回は敵が多いためビーストモードで行きます! 対空ミサイルたんまり用意しました、ステルスミサイルキャリアに多用途全周囲対地対空対艦小型ミサイルも装備していきましょう、これなら単機でも複数の敵に対処できるはずです! 今回のライセンス生産にあたり、日本製のミサイルは詰めるようにはしたのですが今回はスタンダードに、かつストロングな選択としてマルチロールな武装を用意しました、三波ちゃんにこれを乗ってもらいます>>
「えっ、私に!?」

 戦闘機なんて初めて乗るんだけど、どうしよう。

<<円香は乗らないって言ってまして、ここで乗れそうなのは能力的には三波ちゃんしかいない、なので! 君でも操縦できるように操縦系を簡略化してコントローラーを置かせてもらいました! 詳細な調整はこちらでモニターするので安心して戦ってください!>>
「トーカティブ、ありがとう」
<<どういたしまして、幸運を祈りますよ>>
「だそうだ。三波、やれるな?」
「やってみます」

 戦闘機はぶっつけ本番だ、やるしかない。そういえば日常の守護者ピースメーカーに乗った時もぶっつけ本番だった。でも、運転はできた。今回もやってみるしかない。

「私も行きます」

 アトラが声を上げる。

「おい、お前は戦闘機乗ったことも訓練も受けてないだろ、どうするつもりだ」

 ずっと一緒にいたいって言ったこと、覚えていてくれたんだ。

<<確かに臆さぬ蜘蛛女アラクネは複座ですが……もし三波ちゃんが暴走したときは貴女が起こしてあげてください。無いとは思いますが撃墜された場合は貴女が脱出ボタンを押してください>>
「分かった」
「よし、他の奴らは第七層の避難誘導だ。三波、間違っても街に落とすんじゃねえぞ」


新首都東京 第五階層 ライジングゼロ社カタパルト施設 2045年5月12日 仏滅

 臆さぬ蜘蛛女アラクネが置かれた格納庫に向かう。臆さぬ蜘蛛女アラクネは私達を待っていたかのようにその黒い体をカタパルトにつけられていた。

「よし、行こうよアトラ」

 私はパイロットスーツに着替えて、ヘルメットを被る。

ええ、行きましょうパイロットスーツ着ても小さい三波可愛い

 私ははしごを登ってコックピットに入り込む。ここから先は一蓮托生だ。この子とアトラの命運は私にかかっている。操縦桿らしきものがなく、代わりにあったのはコントローラー。

「あ、これならいけるかもしれない」

 お母さんから通信が入ってくる。

<<三波、月影、貴方たち二人のチーム名はカキツバタよ>>
「了解、カキツバタ発進します!」

 カタパルトが勢い良く動き、私達を大空へと飛ばす。
 そのまま上昇して行き、第七層まであっという間に辿り着いてしまう。

「うっ……」
「アトラ! どうしたの?」
「いや、眩暈がしただけ」

 そうだった。私はアトラの命も背負ってるんだった。

<<こちらオーナー。カキツバタ、敵は散開している。ステルスミサイルキャリアの武装を使用するんだ>>

 レーダーには多数の敵影が見える。肉眼では豆粒にしか見えないのでどういう機体なのか判別はできない。

「了解です」

 私は兵装を切り替え、ミサイルキャリアを展開させる。

飛翔●●!」

 ミサイルを撃つと私の見ている範囲のミサイルは可能な限り予測されない軌道を取らせ、正確に片翼を撃ち抜いていく。

三波、今のところいい感じなんで一々飛翔って言ってるんだろう
「うん、このまま押し切っちゃおう」

 ミサイルは羽のように舞い、不明機を墜としていく。

「楽勝……かな」

 そう思っていると、突然後ろからミサイルが飛んでくる。レーダーに映らなかったのに、なんで!?
 慌ててフレアを出そうとすると、既にフレアが撒かれていた。

「三波、慌てないで。私もついてるから」
「うん、今のはステルス機だね」

 機首を傾け、上からのぞくと黒いステルス戦闘機が私達の後ろについていた。

「今までのは全部囮だったんだ、本命はこの機体!」

 後ろをぴったりくっついてきて離れない。相手は手練れだ。
 なんか後ろから照らされているような気がする。
 そう思って旋回したら、レールガンが空を割いた。

「あの機体レールガンを装備してる!」
「あれに当たったらバラバラになるわよ、三波どうする!」
「やってみる……飛翔●●!」

 私はとにかくミサイルを虚空にばらまき、それを全て自分の管制下に置く。
 そして、一度は不明機に向かわせるが、全てを躱されてしまう。
 ミサイルの誘導じゃ相手の反応に追いつけない、私がやるしかない。

反転●●!」

 四方八方に散らばったミサイルが、反転し、速度を調整して不明機の未来予測位置の前後上下左右にミサイルを置き速度を調整して一斉に攻撃させる。
 私はついてきた不明機に向かうミサイルをバレルロールで躱し、不明機にそのまま当てる。
 複数のミサイルに同時に攻撃された不明機は沢山の爆発をし、レールガンは虚空に向かって発射される。

「危なかった……」
<<カキツバタ、空港に誘導する、帰投せよ>>
「ウィルコ、RTB」
「見て、空が綺麗だよ」

 アトラに言われて上を見上げると、宇宙に手が届きそうなダークブルーの空が広がっていた。そのまま吸い込まれてしまいそうだ。手を伸ばす、それでも届かない蒼穹。

「……! ……! 三波! 帰ろう」
「ごめん、ぼーっとしてた」

私は飛行機を空港に向けた。


新首都東京 第五階層 ライジングゼロ社新東京支部 2045年5月12日 仏滅

「不明機は全機撃墜、街の被害も最小限。一機除いて犯人は無事逮捕。上出来だな」

 初めて褒められた気がする。

「その繊細な動きをもっと仕事に生かしてくれ、以上だ」
「えっ、終わり?」
「終わりだ。報告書書いておけよ」

 えー、面倒くさい。

「お前顔に面倒くさいって書いてあるぞ」
「三波、私が代わりにやる。その為に乗ったようなものだし」
「ありがとうアトラ~」

 私はアトラに抱き着く。身長差の関係上私の顔が胸に当たってしまう。たくさんの視線を感じるが気にしない。アトラは即座に私を離す。

「じゃれつくな、仕事に戻れ」
「はーい」



「ウルフ、早かったな」
「フレスベルグ、第二層の爆破跡にはこんなものがあった」
「何、これは」

「緑上の右腕パーツだ。バーコードを読み取ったがCDEサイバネティックダークネスエレクトロニクス社のものだとわかった。どうやら、エリュシオン社からこの会社に転向したようだ」

「そうか……」

「尤もNTRS新東京再侵略国家が金で雇った可能性も否定できない。この証拠だけでCDEサイバネティックダークネスエレクトロニクスを相手どるのは世論から反発を受けるだろう」
「まだ証拠が不十分だな……ん?」
「サイバー攻撃だな、どうする」
「会社にウイルスを送っていた私に対してサイバー攻撃とはいい度胸だな、相手になってやる」
「私は三波の御守りに戻るぞ」
「ああ、そうしてくれ」
「ちっ、こっちは場所が割れているのに相手は中々場所が割れないか……なら裏の手を使うまでだ」


「……もしもし、三波? 今日は帰れそうにないから二人で食べてなさい、うん、うん、それじゃあね」


「さて……糸を垂らしてみるか」

2020/05/04
2020/06/05:誤字修正
2020/06/06:サイト掲載


Top
inserted by FC2 system