ハイビスカスの幕開け 
第7話 身近にいる電子破壊者

新首都東京 第五階層 ライジングゼロ社新東京支部 2045年5月13日 大安


「駄目です、サーバーがダウンして動けません!」
「円香はどうしている! 朱雀山!」
<<今必死に対抗中、相手は相当の手練れだね、趣味でPC弄ってるやつじゃない>>
<<早くしてよ円香、このままじゃ開発何もできないよ!>>


社員総出でだらけている。

「という訳だ、現在ライジングゼロ社はサーバー攻撃を受けて何も動かすことが出来ず、現状待機命令を出さざるを得ない」
「何も?」

 私の問いに黒鎧課長が返す。

「そう、全てデジタル管理していた弊害だな、通信機も使えないし、会社のネットに接続しているものは全て駄目だ」
「そっかぁ……」

 今日一日は完全にマヒしているって感じかぁ。そういえば見たことない電波が通っているかも。

「三波、何見てるの?」
「ふぇ!? あー、いや、ははは……」
「?」

 そういや普通の人●●●●には電波って見えないんだった。私には生まれつき五感を拡張しているので見えてる世界が違う。見渡せば虹のような波が皆の端末から広がっている。いつも見ているから意識してなかった。だから映画館とかは嫌いだ、機内モードにしたりしてない人の端末から電波が漏れてるから気になって集中できない。なので一度行って以来映画館は避けている。

「仕事が一切できないんじゃあどうしようもないか……」
「何言ってるんだ、足で稼ぐんだよ、見回り行ってこい」

 黒鎧課長が電話を取る。

「課長だけが忙しいって感じね、三波、 一緒に行こう」
「うん」

 私は会社を後にした。


新首都東京 第五階層郊外 2045年5月13日 大安

「ここまで何も事件らしい事件なしかぁ」
「この階層テロリストに狙われたりしにくいからねえ」

 私達はお昼になったので近場のジャンクフード店でお昼にすることにした。流石に制服で来てるのでちょっと目立ってるけど。

「おいしいね」
「そう? 普通って感じだけど」
「軍食に比べたら何でもおいしいよ?」
「極端な例を出すわね……」

 食事も終わり二人で談笑していると、見覚えのある電波が窓の外の左から右に飛んでいく。

「あ、見覚えのある電波」
「えっ?」

 私は立ち上がり、ゴミをまとめて捨てて店を後にする。

「どうしたの三波、そんなに慌てて」
「見たことある電波が流れてたんだ」
「電波が見えるの?」
「あ、うん……」

 お母さんに言っちゃダメって言われてたっけ……。

「とにかく電波の出所を探ってみましょう、三波追える?」
「ここは一杯電波が飛び交ってて……何とか追ってみる」


 電波を辿って行くと段々住宅街、というより、自分の家に近づいていく。

「あれ? 帰り道?」
「このままだと私達のマンションにたどり着いてしまうような……」

 そう言っていると、自分たちが住んでいるマンション街にたどり着いた。
 天井ギリギリまで建造されたこのマンションは九階建ての五棟から成り立っている。私達は三棟に住んでいるが、一棟から電波が届いているようだ。
 銃を取り出し、電気のついている部屋を虱潰しにチャイムを鳴らす。怪しい人物がいなかったか聞きこみをしてみるが、あまりいい情報はもらえない。
 八階まで行ったときに変化は起こった。金髪のお兄さんが出てきて情報をくれたのだ。

「最近隣に引っ越してきた奴がいてさぁ、なんか色々どかどか荷物運んでたのを見たよ」
「ありがとうございます! 失礼しますね」
「っていうかお嬢ちゃんたち可愛くない? あとで飲みにでも……」
「あ、結構です」
「私彼氏いるんで」
「ええ……」

 扉を閉め、銃を取り出す。

「彼氏なんていたの?」
いないわよ、別に三波以外要らないわよ
「そっか」

 隣の部屋の扉に立ち、チャイムを押す。

「警察ですけどー!」

 反応がない。微かだが機械音が聞こえる。
 これは……強化兵の駆動音だ!
 私はとっさにアトラを抱えて扉から離れる。
 それと同時に扉が吹き飛ばされ、扉が外へ落ちていく。鈍い音を立てて扉が地面に叩きつけられる。

「ウルフ!」
<<了解、黒鷲を輸送する>>

 ここからなら会社から徒歩五分もかからない、すぐに辿り着くだろう。

「アトラ! 逃げて! 増援を呼ぶんだ!」
「ええ、わかった」

 アトラを逃がし、中から出てくる強化兵を待つ。
 扉から出てきたのは、マントヒヒのような強化兵だった。


「抵抗をやめろ! さもないと撃つ!」
「あ? まだ生きてたのか。勘のいいやつだな」

 黄色い工業用の様なボディに猿のように長い腕を持ち、何よりこいつ自身から電波が飛んでいた。

 電子強化兵エレクトリックマイティサイボーグ。電子戦に長けた強化兵で、今こうしている間にもサイバー攻撃を敢行している。サイボーグ同士の戦闘なら視界ジャックやレーダー破壊で一方的に立ち回れる危険な相手だ。尤も、サイボーグ相手、ならだが。

「俺は黄花伸オウカノビル、これから殺す相手には名乗っておくのが礼儀ってもんだ」
「朱雀山三波、ライジングゼロ社所属」
「朱雀山? ちっ、天才ハッカーの娘か……こいつは厄介だ、だが強化兵でも何でもないお前が俺様に勝てると思ってるのか?」
「やってみないとわからないでしょ! 大体どうやって強化兵がこの第五層に来れたの!?」

 武装した強化兵はセキュリティの都合上、上の階層には出歩けないことになっている。だけどこいつは武装して悠々とこの第五層で潜んでいた。

「俺様は今逃げた月影アトラってやつを捕まえて目の情報をコピーしたってわけ、これで上にも強化兵が来れるって寸法よ、ま、前までは俺様のハッキングでその場しのぎの侵入を繰り返してたけどな! これでやっと俺も別の事に注力できるって思った矢先にこれだ、まったく俺様も運がないぜ」
「口が達者ね、コンプライアンスって知ってるの?」
「これから死ぬ奴にコンプライアンスなんていらないだろ?」
「殺せるものなら……殺してみれば!」

 私は塀の上に立って跳躍し、屋上に立つ。
 追いかけてきた伸は腕を伸ばして思いっきりジャンプして屋上に立つ。

「少女を散らすには暗い天井だなぁ……? こんなところで死んでも誰も助けちゃくれないぞ」
「そっちこそ」

 ケースが屋上まで飛んできて、私はそれをキャッチする。そしてケースを開き、"黒鷲"を手に取る。

「俺様は退屈は嫌いなんだ、がっかりさせないでくれよ?」
「強化兵条約第一条で貴方を攻撃します! エンゲージ!」

 伸は第五層の天井の鉄棒を手を伸ばして掴み私に対して飛び蹴りをぶちかまそうとしてくる。
 私は即座に銃を抜き、伸の進行方向上に銃弾を置く●●、私は片手で撃ったせいでその反動で吹き飛ばされるが、結果的には回避した形だ。
 伸の足に銃弾が直撃し、装甲にひびが入る。

「いってぇ!?」

 二度は同じ手は通用しないだろう。私は銃をしまい、態勢を整える。
 伸は腕につけた機銃で攻撃してくるが走って躱す。そのまま回り込んで後ろに回るが伸は腕を伸ばして縁を掴んで腕を縮める。

飛翔●●!」

 距離があくが、槍を投げて頭を狙いに行く。

「おっと」

 強い電波が発信されたかと思うと、槍が空中で制止する。

「お前さんの能力は銃奈ガンナの戦闘記録で解析させてもらったぜ……どういう原理かは知らねえが、声をトリガーに武器を操作する能力なんだってな、電波は使ってないようだが、電波で制止できるってことは受信機能がお前の武器にはあるってこった」
「クッ……」
「そうらお返しだ!」

 槍が反転し高速で飛んでくる。頭を逸らし、柄を手で掴む。
 どうしよう、手がない。
 一瞬向かいのマンションがきらりと光る。アトラだ、銃を構えてる。こっちに集中してる状態でなら強化兵でも即座に対応はできないだろう、私はアトラを信じる。
 私は無策で突っ込むかのように見せかけ、槍を振り回す。

「ちっ、こういう手合いが一番困るんだよな!!」

 伸は両腕から機銃を撃ってくるが、跳躍して躱す。
 そのまま伸に槍を突き立てようとするが、片手で槍を掴まれそのまま横に叩きつけられる。

「――――――――――ッ!!」

 鈍痛が私を襲う。立て直すが槍を片手で掴まれ、振り払えない。

「臓物を散らしてやるぜ!!」

 もう片方の腕がこちらに迫る、死ぬ!


 刹那。


 私の腕に届くよりも、伸の頭が破壊される方が先だった。
 届いたんだ、あの距離から。

「ガ、ギャァアアアア!!」

 電子音交じりの悲鳴が響く。
 通信機が回復し、アトラの声が届く。

<<当たった! 間一髪だったわ>>
「ありがとうアトラ」
<<相棒でしょ? 一人で逃げられないよ>>
「そうだった」

 そうしていると端末に通信が来る。伸の声だ。

<<ふざけんな……非日常に憧れて強化兵にしてもらったってのに、こんなつまんない死に方なんて嫌だ!>>
「知らない、強化兵になんかならなければこんな目にも逢わなかったよ」
<<助けてくれよう……俺様は幹部なんだぞ。社長、助けてくれよう!!>>
「……」
<<アヒャ、ハハハハギャハァアア!!>>

 通信が途絶える。こいつから発せられていた電波も止まった。どうやら機能停止したようだ。


 屋上の蓋が開き、アトラと他の仲間が到着する。

「うわ、派手にやったね」

 屋上は機銃の痕で一杯だ。

「あはは……修理が大変そうだ……」

 思いっきり床に叩きつけられたので、私は立ち上がるとよろけた。咄嗟にアトラが支えてくれる。

「ありがとう」

 そのまま二人で座り、私は縁に背を預ける。

「三波、これ以上無茶しないで」
「皆を守るためだよ、誰かがやらないと」
「そうじゃないの、私の目を見て」

 逸らしていた顔をアトラは両手で正面に向き直させ、二人で見つめあう。

「えっ、えっと」
このままじゃ三波が死んじゃうよこのままじゃ三波が死んじゃうよ私はそれだけは嫌だ私はそれだけは嫌だ。これは本心から言ってるの」
「……」

 二人の沈黙が続く。仲間たちが伸を回収しようとしている。

「ごめん、私は誰かを助けずにはいられないと思う、だからはっきりと約束はできないよ」
「……」
「……あーでも、アトラは一番だよ、それだけは譲れないかもしれない。うん」

 アトラの顔が赤くなる。そして目を逸らす。

「あのね! 誰彼構わずそれ言わないこと!私が一番!? どうしてこう……!
「本当なんだけどなぁ」

 そうしていると仲間が報告してくる。

「皆見てくれ、魔改造が施されてるがこれはCDE社製のボディだ!」

 私は聞き返す。

「CDE?」

 アトラはすぐに応えてくれる。

サイバネティックダークネスエレクトロニクスCDE、新首都東京にいち早く参入し第二層からのし上がった民間軍事企業」
「へぇ……」
「そして、第二層の人達が蛇腹って言われる理由でもあるわ」
「蛇腹? 蛇腹って何?」

 仲間の一人が答える。

「答えていいな? 古代インドの宇宙観って知ってるか? 一番下は巨大な蛇が支えその上に亀、象が乗ってるってやつ。蛇腹はそこから来ているんだが……第二層の人間は上の階層で出た有害物質が人体に蓄積して体の一部が変色するんだ、だから第二層の人間はすぐにわかってしまう。蛇毒に侵された様に見える人間と宇宙の一番下に位置する人間という意味を込めて、上の階層の奴らが言い出した言葉なのさ」
「なにそれ、アトラはこんなに綺麗なのに」
「のろけか? まあいい、月影には気分の悪い話だったな。弊社は階層問わず優秀な人間を集めているけど、外からはごろつき集団呼ばわりされてるんだよな、まったくいい迷惑だぜ」
「私はアトラが上の人間になんて呼ばれてても気にしない、どんなに敵が多くても私はアトラの味方でいたい」

 そしてそれは私自身の生きる理由でもあるんだ。

「もういい、それ以上喋らないで、恥ずかしくて死ぬ」
「ははは、三波ちゃんもよくこっぱずかしい言葉が言えたもんだ?」
「そうかな、私別になんとも感じないけど」
「そこが三波の良い所だけど、もう恥ずかしくて消えてしまいたい……!」
「あはは、かわいいよアトラ」
「~~~~ッ」


新首都東京 第五階層 ライジングゼロ社新東京支部 2045年5月13日 大安

「ふぅ……」
「円香、終わった?」
「ああ、攻撃が止んだから復旧出来た。お陰様でどこの会社のサーバーを経由してるかもまるわかりだ」
「やっと開発が再開できるよー」
「やはりCDE社のサーバーを経由してたか……」
「どうするの?シェア一位の大企業だけど」
「うちは分社だからな、勢力も少ない。私は武装出来ないし、あの子たちに任せるしかない」
「それだったら、開発急がないとね」
「ああ、日常の守護者ピースメーカーの追加武装、秩序の執行者セラフィムを……」

2020/05/05
2020/06/07:サイト掲載


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