ハイビスカスの幕開け 
第9話 リゾートハイウェイバトル(後)

新首都東京 第五階層 ライジングゼロ社新東京支部 2045年5月17日 仏滅


 十三時直前。私達は装備の再確認を行っていた。

「あれ、私の日常の守護者ピースメーカー、なんか知らないコンテナがくっついてる?」

 四角いコンテナが車体後方に接続されている。

<<チームカキツバタ、日常の守護者ピースメーカー専用追加コンテナ市民の英雄エグゼムプラリィブレイヴです! 中には対物ライフル、拳銃とライフルの弾丸、防弾シールド、小型ミサイル、機関砲追加銃弾 "黒鷲"などを搭載しています! CDE社と戦うために必要な装備は全て積み込みました! 使い方は外部装置制御ボタンを押しながらミサイルでコンテナのミサイルが起動します、外部装置制御ボタンを押しながら機銃ボタンで後方機銃、外部装置制御ボタンだけを押せばコンテナの開閉を行うからそれで走行中も弾薬の補給はできるはず、もちろんコンテナが切り離されても良いようにコンテナにも開閉ボタンはあるから活用してください。三波ちゃん、幸運を祈るよ!>>
「うん、ありがとうトーカティブ」
<<こちらオーナー。警察課全社員に告ぐ、緊急事態宣言を受け第六層は封鎖状態になった。これより一般車両は通行できない、つまり今いる者たちだけが味方ということだ。それ以外の車両への攻撃を許可する。必ず生きて生還しろ、それ以外は許可しない>>

 装備の確認を終え、警察課の皆がズラリと整列する。
 そして、ビシッと背を伸ばして立ち、黒鎧課長が正面に立つ。

「お前ら、一つだけ言わせてもらおう。これから俺たちは重要な作戦に参加する。このひと月の連続したテロ行為は全てCDE社によるものだった。何故か? それを考える必要はない。それを考えるのは作戦が終わってからの事だからだ。俺たちは生まれも育ちも皆バラバラだが共に悪に戦い、そして勝利してきた。だが今回の作戦はサイボーグとの全面戦争になるだろう。俺たちはサイボーグに比べちゃあまりに非力だ。死ぬかもしれない。全員遺書は書いてきたか? 思い残すことはないか?」

 私は手を挙げて元気よく返事する。

「はい! 録画でたまった番組が残ってます!」

 皆が一斉に笑い始める。

「そうだ、俺たちにはまだやることがある。今日は大事な一日かもしれねえが人生に比べりゃ些細な一日だ。俺たちは守りたいものがある。それは市民、友人、そして家族だ。だから俺たちは負けられない、負けちゃいけない。俺たちは今できることをやって笑って明日を迎えようじゃねえか。さあ、人々の希望かけがえのない明日を取り戻しに行くぞ!」

 全員が敬礼し、それぞれの白バイに乗っていく。
 そして、私も、アトラと一緒に日常の守護者ピースメーカーに乗る。
 システムオールグリーン、市民の英雄エグゼムプラリィブレイヴも接続オーケー。
 目を閉じ……そして開く。

「どうしたの? 精神統一?」
「うん、最後の勇気を振り絞ったところ。さあ、行こうよ、アトラ」
<<こちらオーナー。私はここでサポートすることしかできない。チームカキツバタ、最適の健闘を>>
「了解!」
「オーケー!」

 私は日常の守護者ピースメーカーに魂を吹き込み、第六層に向かう。


<<~~~♪>>

 仲間の誰かが口笛を吹く。
 知ってる曲だ、私も口ずさむ。

「~~~♪」

 アトラも歌い始める。
 警察を題材にした特撮のテーマ曲だ。私も子供のころ夢中になって見ていた。

<<なんだ、皆歌い始めやがって、俺も歌うぞ!>>

 課長も歌い始める。気が付けば大合唱だ。
 一曲歌い終わったところで課長が報告してくる。

<<そろそろ上昇路だ、トンネルを出たら敵地だ、行くぞ>>


 長い一日になる。


新首都東京 第六階層 ヴァーチャルリゾートエリアハイウェイ 2045年5月17日 仏滅

 第五層に突き刺す一筋の光を見届けた後、長いトンネルに入り、第六層へと入る。ここからは時速百キロを超える戦いだ。傷つくことは許されない。
 トンネルから高速道路に入ると、後ろからショットガンを持ったサイボーグが乗るチョッパーが複数台ついてくる。

<<カキツバタ! 後ろに三両!>>
「アトラ!」
「任された!」

 アトラは左を背にして座り、背中に持っていたライフルでチョッパーのエンジン部を射貫く。
 正面ガラスに反射して銃口が見えたので速度を落とし、二両を自分たちの前に引きずり出す。私は拳銃を抜き、片手で一両のタイヤに向かって撃つ。後輪がパンクして派手に吹っ飛ぶ。銃も反動で吹っ飛ぶがアトラが飛んだ銃を掴み私に渡してくる。

「ありがとう」

 残り一両を見ると、後続の仲間がエンジン部に攻撃して撃退していた。

「ナイスサポート!」
<<おう、俺たちはそのバイクは用意されてないが、お前たちについていくぜ>>

 一両じゃどうにもできないと思ってたところだった、サポートが一人いるだけでも助かる。そう言ってると前にバリケードが阻む、まだ距離が遠いので左に移動し、後続車も左に移動する。どうやらバリケードがこの先もあるようだ、隙間を縫いながらバリケード帯を抜けていく。

<<前方に戦車だ、まだ射程外だ、ミサイルを使え>>

 ミサイルの発射ボタンを押すと、後ろのコンテナが開き、バイクより速いスピードで戦車に向かっていく。大きな花火を上げ弾け飛ぶ。

<<横より車両!>>

 左右の真横に一台づつ、挟み撃ちだ、まずい。
 私は銃口を向けられ、撃たれる瞬間に速度を下げてそのままもう片方のバイクの運転手に当てる。そして、残ったもう一両のバイクのエンジンに向けて仲間がライフルを撃つ。

<<前にサイボーグの集団がバリケードを作って封鎖している!>>

 機銃のボタンを押し、前方に機銃掃射する。横からミサイルが飛んでいく、どうやら仲間が発射したミサイルだ。正面のバリケードをサイボーグごと破壊し、バリケードの間にできた隙間に私達は潜り込む。

<<俺はここまでだ! 先を急いでくれ!>>

 仲間がバリケードに阻まれ離脱する。
 目標地点が近づいてきたが、後ろからヘリが迫る。機銃掃射を躱すが、ミサイルを撃たれる。

「アトラ!!」
「オーケー」

 アトラはライフルで複雑な機動を取るミサイルを撃ち抜く。
 その間にこちらもミサイルの発射ボタンを押し、お返しをする。

飛翔●●!」

 ミサイルに相手が予測不可能な機動を取らせ、迎撃を困難にさせる。ヘリの後ろに回り込んだ後、ヘリの真下にミサイルを行かせ、そのまま上にぶち当てる。ヘリが墜落、炎上する。デカい黒煙が出るが、天井から雨が降りすぐに消火が始まる。

<<後方から反応! このスピードは……攻撃機だ! 攻撃機が向かっているぞ!>>

 慌てて後ろを振り向く、豆粒みたいなサイズだがこちらに向かってくる奴が見えた。

「げぇぇぇぇぇぇ!? A-10J!!」
「ねぇアトラ、飛行機って倒せる!?」
「無理なんじゃない!?」
「だよねぇ……!」

 ミサイルが迫ってくる。ミサイルはアトラはどうにか処理出来ているが、攻撃機本体となると話は別だ。大体徹甲弾や榴弾耐えるんでしょ? バイクに積めるサイズのミサイルや機銃じゃ勝てないよ。
 アヴェンジャーが火を噴く、まずい、一発でも食らったら車体が吹っ飛ぶどころじゃすまないぞ。ミサイルの雨が止み、アヴェンジャーに翻弄される中、徐々に攻撃機が近づいてくる。アトラはコンテナを開け、対物ライフルを取り出す。

「アトラ!?」
「一か八か、エンジン部を撃ち抜く!」

 私が蛇行運転する中、エンジン部を狙撃するそうだ。一瞬でも良いから直線で走らないと……。

「肩借りるよ」

 肩に対物ライフルを乗せられ、私はそれと同時に速度を急激に落とす。攻撃機は私達を追い越す。
 そして後ろが露になった瞬間を狙ってアトラは対物ライフルの引き金を引いた。
 エンジン部に被弾し、煙を上げる。徐々に速度を落としていく攻撃機を追い越していこうとすると、パイロットが脱出するのが見えた。
 そしてその巨体は道路に墜ち、大炎上する。だが人工雨によって消火が始まるが……恐らくすぐには消えないだろう。
 最後のバリケードを抜ける。

<<一両抜けたぞ!>>
<<目的地にたどり着いたのはどのチームだ!?>>
<<カキツバタ! カキツバタだ!>>
<<三波と月影か! お前らが一番槍だ! 全車両バリケードを破壊したら後続に行かせろ! カキツバタの支援をするんだ!>>

 私はバイクのミサイルを二発撃って前方のビルのバリケードの破壊を試みる。一度CDE本社ビルに入ってしまえばバイクのミサイルは不要だし、コンテナもおまけで撃ってしまおう。

「アトラ! ミサイル全弾使うよ!」
「分かった!」

 ミサイルがバリケードに向かって鳥のように飛んでいき、そしてバリケードを粉々に粉砕し、奥のドアやサイボーグ兵も炎上させる。徐々に速度を下げ、バリケードの前で停車する。

「おまけで撃ったのが効いたみたい」
「動けるサイボーグ兵は無し、上出来ね」

 そう言ってると背後に倒れているサイボーグ兵がライフルを上に持ち上げてくる。

「アトラ危ない!」

 私は拳銃を抜きライフルを持つ手に向けて発射する。

「ぎゃぁ!!」

 相手の腕が吹っ飛びライフルが弾き飛ばされる。

「危なかった……三波ありがとう」
「うん」
「さて、ここから先は悪の親玉の根城ね……後戻りはできなさそうだけど準備は良い?」
「うん、大丈夫」

 私達はビルを正面から入り、エレベータのボタンを押す。

「うーん、使えないか?」
<<ウルフだ、こちらでハッキングをかけてみる>>
「分かった、任せるよ」
<<こちらオーナー、そのエレベータは十三階、つまり第七層の地表までしか届かない。第七層の最上階まで行くには別のエレベータを探してくれ。恐らくそこは一番防備が固いだろう>>
「了解、ハッキングを待ちます」

 そうして待っているとウルフからハッキング官僚の報告を受け、エレベータが使用可能になる。

「ここまで強化兵が出てこないわね……十三階になったらいるのを覚悟しないといけないかも」
「うん、その時はアトラは隠れて欲しいかな、強化兵なんて並の人間じゃ太刀打ちできないし」
「無茶はしないでよ」
「出来る範囲しかやってないよ、出来ると思ったからやってるだけ」


 十三階に着く。私達はエレベータを後にした。

2020/05/07
2020/06/09:サイト掲載


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