ハイビスカスの幕開け 
第11話 Two Of Braves

新首都東京 第七階層 CDE社80階 2045年5月17日 仏滅


 課長や仲間、オーナーやお母さん、ウルフから通信が入らなくなって大分経った。どうやら通信もECMによって破壊されてしまったようだ。私達は社長室を目指してサイボーグたちを倒しながら突き進んでいる。

「何人倒したかな……」
「さあ、どうかしら……これで最後のリロードか」

 弾薬も心もとない。それなのに社長とテロ組織のリーダーが残っている。もし抵抗するなら撃たなければならない。だが相手が強化兵でない保証がない。
 社長室に続く廊下はかなりの数のサイボーグが固めている。全員NTRS新東京再侵略国家のマークを付けているみたいだ。物陰に隠れ、様子を窺う。

「うーん、この数だとグレネードとかが欲しいけど……」
「あの人数なら何かしらの対抗手段を持ってると考えていいわね、あの武器を操る超能力って使えないの?」
「武器に直接触れてる時か、レーダーか視界で見えてる範囲しか出来ないんだ、レーダーが使えなくなってるし、自分を敵の眼前に晒さないといけないから、ちょっと難しい」

 そもそも対応している武器は少なくて、新しい武器ほど怪しくなってくる。
 うーむ、これは厳しいかな。あの人数の銃弾の弾幕を槍で捌くのは無理だ。銃だって敵の正確な位置を把握しながら銃も見てないといけない。顔を出してたら狙われる。

「よし、一旦戻ってサイボーグたちの装備を奪ってこよう、もしかしたら見落としてる武器があるかも」
「IDはどうするの?」
「朱雀山の娘だからね、大丈夫」

 まあお母さんはID解除するの苦手なんだけど。


 一つ下の階に戻って倒したサイボーグ達の武器を漁る。
 一人のサイボーグ兵が持っていたレールガンを見つけ触ってみる。奇跡的に槍で貫いて無いので傷一つなく、弾も十分。触ってみるとこれは操れるのがわかる、どうやら旧式だ。このレールガンなら私も十分に動かすことが出来る。

「やったレールガンだ!」

 私は早速IDを解除する。数分かかったが、些細な問題だ。

「これならいくらサイボーグがいても吹き飛ばせるわね」

 結構見落としているもので、対物ライフルや弾薬がボロボロ落ちていた。急いでいたのでここまで見落としていたのだろう。冷静になって振り返ってみるとかなりの量だ。

「これだけ弾薬があればなんとかなりそうね……ご丁寧に5.56だし」

 あまり長話している時間はない。次また変な兵器を持ち出される危険性がある。
 ここに安全な場所はないのだ。

「よし、社長室前に戻ろう」


 私は社長室のサイボーグ達が移動していないのを手鏡で確認し、社長室の通路にサイボーグ達が射線上に入るように投げ込む。

発射●●!」

 サイボーグ達の群れを社長室の扉ごと吹き飛ばし、私は銃とライオットシールドを構えながら突撃していく。生き残ったサイボーグ達にアトラの狙撃が当たる。最後の一体になり、盾を構えながら槍を投げる。最後のサイボーグの胸に当たり、姿勢を崩し、戦闘不能になる。
 社長室前の敵は一掃出来た。
 社長室の扉は吹き飛ばされ、がら空きになっているが、一応中の様子を確認する。
 中には一人の男が扉を横に蹴飛ばし立っていた。顔は角ばったフルフェイスで隠され、長身でありながら上下ともに鍛え上げられたとは思えないほどどっしりとした体格、そして身の丈程の巨大な斧……間違いない、強化兵だ。

「待っていたぞ、朱雀山三波、そして我が娘よ。よくぞここまでこれたな」
「貴方が月影源郎? なぜこんなことを?」
「そうだ、俺が月影源郎、アトラの父だ。なぜこんなことを? それは何に対して言ってるのかね、我々はこの搾取することで生まれたこの島を我々の手に取り戻そうとしているのだよ」
「此処には日本の半分の人が住んでるんだよ? 取り戻すって何を!?」
「我々は新東京という海の真っただ中に巨大な島を建設するという建設工事に参加することになった。仕事がなかったからな。十年以上かかるプロジェクトだったが俺達はサイボーグになってまで我々は建設を続けた! 何人もの仲間が犠牲になった! だが奴らは土台ができた後あっさり俺達を下に押し込め上の連中はまだ真人間な建設会社にビルや家を作らせた、俺たちは用済みってわけだ……だから思い知らせてやるんだよ、我々の力をな! この、新東京再侵略国家が新たな国を作り独立する!!」
「くだらないわね、言ったでしょ三波、こいつはどうしようもないクズだって。アンタの言うお題目がどんなに立派でもそれによって生まれた犠牲は無視してるわけ? 自分がやられたからやり返していい発想なんて子供のうちに棄てなさいよ!」
「なら俺達の怒りはどこにぶつければいい! 奴らは俺達を見下した、そして俺達を無かったことにした! 矜持を傷つけられたものがやるべきことは戦争だろうが!!」

 アトラと源郎が口論を続ける。このままじゃ平行線だ。

「あの」
「なんだ!」
「じゃあ、私が聞きたいことはもう一つあって、何故貴方達がこのビルにいるかってことなんですけど」
「簡単な話だ、奴らから武器を提供する見返りにこの会社を守るように契約したからだ。おかげで今日に至るまで俺たちは多少の犠牲を払いながらも逃げおおせてきた」
「でも、アンタの崇高な思想もここで終わり、アンタを倒して街に平和を取り戻すわ」
「倒す? 俺を? お前たちの銃じゃ俺を貫くことなどできはしないだろうな、対物ライフルでやっとといったところか。だが俺の斧はそれすら弾く! 戦うのにここじゃ狭いだろう、奥にある階段についてきな」

 源郎は重い足を軽やかに動かし、社長室奥の階段をホバーで登っていく。

「どうするアトラ、どう考えても罠だと思うけど……」
「どちらにしろここに社長はいない、あいつを倒してビルを制圧するわよ」


 社長室の奥の階段を登ると屋上のヘリポートに出る。気が付けば日も傾いてるし、上空にはヘリが沢山飛んでいる。もう既にかなりの時間戦っていたんだ。

「ここなら何も気にせず遊べるだろう?」
「答えろ! ここの社長はどこに消えた!」
「答える必要はない、そもそもお前らは生きてここを出ることもできない!」

 源郎は持っていた斧を振り回し肩に担ぐ。あれを食らったらひとたまりもない。

「来い、手加減してやろうじゃないか」
「あとで吠え面掻かない事ね!」

 アトラの啖呵で戦闘が始まる。
 ずっと眺めていたが、重量の関係的にこっちが圧倒的に不利だ、ホバー移動するので移動力は変わらないときた。俊敏さだけで勝つにはあの斧を何とかして落とさないといけない。注意を引かないと。
 私は全力で走って背後を取る、そして槍を突き立てるが弾かれてしまう。

「堅ッ!?」

 即座に源郎は私の方向にホバーで回転し、私に左フックを当ててくる。吹き飛ばされ、即座に体勢を立て直すが、長時間の戦闘による疲れで上手く立てない。

「無駄なことだ!」
「三波!」

 アトラは対物ライフルで源郎の頭を撃つが斧を背中に持っていき弾く。

「クッ……」

 源郎は私に近づき、"黒鷲"を取り上げる。

「こんな物が同志たちを殺してきたのか……フンッ!」

 源郎が槍を握りつぶし、刃の部分が砕かれ、"黒鷲"がただの棒きれになる。

「そんな……ッ!」

 源郎の鳩尾が腹に入る。

「所詮この世は弱肉強食だ!」

 源郎の蹴りが直撃し、私は転がされる。

「三波!!」
「相棒が殺されるところを黙って見てるんだな!!」

 私の腹を執拗に蹴る。

「才能の無い奴、努力しない奴、運の無い奴、金のない奴! そういう奴から消えていく!」

 血を吐き、消化していた食べ物も戻す勢いで吐いてしまう。
 源郎が私の髪を掴み持ち上げる。

「お前は運がなかったんだよ」
「三波……」
「負ける……もんか……!!」
「あ?」
「勇気だけが私の取り柄だから……市民の英雄ヒーローとして……こんなところで挫けられない……!!」
「なら少しは抵抗して見せやがれ!」

 私を上空に飛ばし、私は床に叩きつけられる。

「俺達がこの新東京を占拠すれば俺達は俺達の意志で戦うことが出来る! 俺達は何にも縛られない自由を得られる!! 弱肉強食の摂理そのままに俺達が頂点に立つ!!」

 起き上がろうとした私の背中を踏む。

「そうやって弱者を犠牲にするんだ! 私達はそんな人達を守るためにいるんだ!」
「なんだと……貴様のように金にも体力にも恵まれて何の不自由もなく育った奴に! 言われる筋合いはねえ!!」

 私はそう思われていたのか。源郎は私を蹴飛ばして距離を取る。
 立ち上がって源郎を見る。いまだ斧を振り回す様子がない。使えばとっくに勝負が終わってる筈なのに。

「なんで斧を使わない……!」
「使う必要がないからだ! 貴様らなど、この拳だけで十分だ!」

 そういうと斧を投げ飛ばし、斧はヘリポートの端に刺さる。そして私にあっという間に近づき私を殴り飛ばす。
 まだ生きている。生きている限り、諦められない。

「まだ死なないのか、しぶとい奴だ」

 一機のヘリが近づいてきて中から何か飛んでくる。
 槍だ!

「三波!!」
「ウルフ……!」
「その槍を持つものは高潔なる精神の持ち主だった。私は三波の選択の先が見たいといっただろう? 私は三波の高潔な精神に惹かれた。三波にはこの先を生きてその思想を語り継ぐ義務がある」
「ふん、同じような槍を持ってきてなんになる? 槍が変われば俺に勝てると? 態々ヘリに乗ってきた時点で分かっているだろうが、狙ってくれって言ってるようなもんなんだよ!」

 源郎は背中のバックパックを開く。中からミサイルがせり出してくる。
 私は槍を持つ。懐かしい槍……お母さんが使っていた黒鷲の槍だ。

「ウルフとか言ったか、これで死ね!!」

 源郎はミサイルを発射し、ヘリを撃墜する。

「月影源郎!!」

 槍を構える。使い慣れていた黒鷲と違って黒鷲の槍は若干長い。使い手は自分より背が高かったのだろう。

「私の人生は暗闇だった……人付き合いはできないし、姉を三人も人型に殺され、母は三年も復讐に捕らわれ、私も失語症になった……だけど」

 私には。

「今は違う! 私は変われた! 変わらせてくれる人ができた!」

 私には、アトラがいる。

「そして私は人々を守るための力がある! 理由はわかる! 同情もできる! でも手を出したのはあんただ! だから私は力を振るう! これから生まれる新しい命の為に!」

 私には、アトラがいる。今はそれだけでいい。

「フッ、やってみろ小僧……出来るもんならなぁ!!」


「いざ、尋常に……勝負!!」

2020/05/11
2020/06/11:サイト掲載


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