ハイビスカスの幕開け
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新首都東京 第七階層 CDE社80階 2045年5月17日 仏滅 課長や仲間、オーナーやお母さん、ウルフから通信が入らなくなって大分経った。どうやら通信もECMによって破壊されてしまったようだ。私達は社長室を目指してサイボーグたちを倒しながら突き進んでいる。 「何人倒したかな……」 弾薬も心もとない。それなのに社長とテロ組織のリーダーが残っている。もし抵抗するなら撃たなければならない。だが相手が強化兵でない保証がない。 「うーん、この数だとグレネードとかが欲しいけど……」 そもそも対応している武器は少なくて、新しい武器ほど怪しくなってくる。 「よし、一旦戻ってサイボーグたちの装備を奪ってこよう、もしかしたら見落としてる武器があるかも」 まあお母さんはID解除するの苦手なんだけど。 一つ下の階に戻って倒したサイボーグ達の武器を漁る。 「やったレールガンだ!」 私は早速IDを解除する。数分かかったが、些細な問題だ。 「これならいくらサイボーグがいても吹き飛ばせるわね」 結構見落としているもので、対物ライフルや弾薬がボロボロ落ちていた。急いでいたのでここまで見落としていたのだろう。冷静になって振り返ってみるとかなりの量だ。 「これだけ弾薬があればなんとかなりそうね……ご丁寧に5.56だし」 あまり長話している時間はない。次また変な兵器を持ち出される危険性がある。 「よし、社長室前に戻ろう」 私は社長室のサイボーグ達が移動していないのを手鏡で確認し、社長室の通路にサイボーグ達が射線上に入るように投げ込む。 「 サイボーグ達の群れを社長室の扉ごと吹き飛ばし、私は銃とライオットシールドを構えながら突撃していく。生き残ったサイボーグ達にアトラの狙撃が当たる。最後の一体になり、盾を構えながら槍を投げる。最後のサイボーグの胸に当たり、姿勢を崩し、戦闘不能になる。 「待っていたぞ、朱雀山三波、そして我が娘よ。よくぞここまでこれたな」 アトラと源郎が口論を続ける。このままじゃ平行線だ。 「あの」 源郎は重い足を軽やかに動かし、社長室奥の階段をホバーで登っていく。 「どうするアトラ、どう考えても罠だと思うけど……」 社長室の奥の階段を登ると屋上のヘリポートに出る。気が付けば日も傾いてるし、上空にはヘリが沢山飛んでいる。もう既にかなりの時間戦っていたんだ。 「ここなら何も気にせず遊べるだろう?」 源郎は持っていた斧を振り回し肩に担ぐ。あれを食らったらひとたまりもない。 「来い、手加減してやろうじゃないか」 アトラの啖呵で戦闘が始まる。 「堅ッ!?」 即座に源郎は私の方向にホバーで回転し、私に左フックを当ててくる。吹き飛ばされ、即座に体勢を立て直すが、長時間の戦闘による疲れで上手く立てない。 「無駄なことだ!」 アトラは対物ライフルで源郎の頭を撃つが斧を背中に持っていき弾く。 「クッ……」 源郎は私に近づき、"黒鷲"を取り上げる。 「こんな物が同志たちを殺してきたのか……フンッ!」 源郎が槍を握りつぶし、刃の部分が砕かれ、"黒鷲"がただの棒きれになる。 「そんな……ッ!」 源郎の鳩尾が腹に入る。 「所詮この世は弱肉強食だ!」 源郎の蹴りが直撃し、私は転がされる。 「三波!!」 私の腹を執拗に蹴る。 「才能の無い奴、努力しない奴、運の無い奴、金のない奴! そういう奴から消えていく!」 血を吐き、消化していた食べ物も戻す勢いで吐いてしまう。 「お前は運がなかったんだよ」 私を上空に飛ばし、私は床に叩きつけられる。 「俺達がこの新東京を占拠すれば俺達は俺達の意志で戦うことが出来る! 俺達は何にも縛られない自由を得られる!! 弱肉強食の摂理そのままに俺達が頂点に立つ!!」 起き上がろうとした私の背中を踏む。 「そうやって弱者を犠牲にするんだ! 私達はそんな人達を守るためにいるんだ!」 私はそう思われていたのか。源郎は私を蹴飛ばして距離を取る。 「なんで斧を使わない……!」 そういうと斧を投げ飛ばし、斧はヘリポートの端に刺さる。そして私にあっという間に近づき私を殴り飛ばす。 「まだ死なないのか、しぶとい奴だ」 一機のヘリが近づいてきて中から何か飛んでくる。 「三波!!」 源郎は背中のバックパックを開く。中からミサイルがせり出してくる。 「ウルフとか言ったか、これで死ね!!」 源郎はミサイルを発射し、ヘリを撃墜する。 「月影源郎!!」 槍を構える。使い慣れていた黒鷲と違って黒鷲の槍は若干長い。使い手は自分より背が高かったのだろう。 「私の人生は暗闇だった……人付き合いはできないし、姉を三人も人型に殺され、母は三年も復讐に捕らわれ、私も失語症になった……だけど」 私には。 「今は違う! 私は変われた! 変わらせてくれる人ができた!」 私には、アトラがいる。 「そして私は人々を守るための力がある! 理由はわかる! 同情もできる! でも手を出したのはあんただ! だから私は力を振るう! これから生まれる新しい命の為に!」 私には、アトラがいる。今はそれだけでいい。 「フッ、やってみろ小僧……出来るもんならなぁ!!」 「いざ、尋常に……勝負!!」 |
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2020/05/11 2020/06/11:サイト掲載 |