そこにあるイベリス
第1話 旧首都東京 海岸地区

<<諸君、早速だが緊急出撃だ。時間が押しているので手短に用件を伝える>>
 オペレーターの声をそこそこに聞いていた私は非常に焦っていた。事の発端は、数時間前に士気向上のために日本首相がこの極東戦線最前線基地にジェットで来たことに起因する。基地に強襲をかけられ、いつも通り迎撃に出ていた私は、首相が狙いであることに気が付かなかった。

<<敵は我々の基地を強襲し、更に制海権も手にする腹積もりだろう>>
<<この海軍基地が最後の砦だ。本作戦の失敗は敵による本州完全掌握に直結する>>
<<敵機動兵器、コードネーム"閃光"を撃破、基地を守り抜け>>

 こんなビルが立ち並ぶ街中で戦車砲を撃ったら間違いなく瓦礫の下敷きになるだろう。持ってきたレールガンも、銃身が焼き付いていて使えそうにない。

「……ちっ」

 今まさに私は自分が役立たずであると痛感していた。

「降ってきたか……」

 気が付けば強い雪が私を覆い隠そうとしていた。

<<武器がないのか?>>

 オペレーターの問いかけに網膜に映る情報を基に整理する。使用可能な武器は……榴弾砲と牽制用の拳銃のみ。レールガンは使えないし、遠隔操作兵器……商品名「スプライト」は全部お釈迦になっていた。また調達しないといけないが、スプライトは高価で中々手が出せない代物なので十戦に一回使えればいいかどうかといったところだ。

<<ない>>
<<そのようだな、じゃあそこに転がっている車のケースを確認してくれ>>

 首相が乗っていた装甲車は今はひっくり返ってしまっており、中はもぬけの殻だ。
恐らく全員攫われたと考えていいだろう。

<<何? このごついの……>>

 ケースは非常に大きい代物だった。対物ライフルでも入っているのか?

<<君の会社が新開発した兵器、ライジングソードシリーズ、ライキリだ>>

 どう見てもチェーンソー……なのだが、どう見ても常人が持つようなものではない。一メートル半はあろうかという大きさのチェーンソーが二つ入っていた。

<<あんまり趣味じゃないんだけど>>
<<今はそれしかない、不満か?>>
<<別にぃ……ただ……>>

 これを振り回せと?

<<ただ?>>
<<いや……なんでもない>>
<<そうか、では臨時編成を実施する。円香、君はアルファ1だ。敵をせん滅しろ>>


「物語の始まりよ」


 敵としては人型が3人と……全天候型対機械兵汎用多脚戦車"クレセント"か。近づいてきた人型に振り返りざまにライキリの横薙ぎで真っ二つにし、そのまま横のコンテナを破壊して一時的なバリケードを形成する。
 さて、クレセントだが四脚の無人兵器であり二メートルの無人兵器としては中型に分類される。確か陸自が量産品を配備していた兵器の一つだ。主砲は一般的な戦車よりは小さいが、どこへでも配備できるという点が評価されていたような気がする。
 進撃するクレセントにバリケードが邪魔するが、主砲の一発でバリケードが破壊される。とっさにクレセントの両足の間にスライディングして回避しライキリを上に立てるが、装甲が固くあまりダメージがない。―――斬撃ではダメか。一旦ライキリの片方を落とし、全速力でクレセントの下へ駆ける。足を大きく振りかぶってクレセントの下部に向かって蹴りを加え体勢を崩させる。それによってひっくり返ったクレセントは脚を逆回転させ立て直そうとするが、その前に飛びあがって踵落としを決める。装甲が破壊され露になった電子回路にライキリを叩きこみ、電気を流し込んで無理やり機能停止させる。もうこの兵器は使い物にならないだろう。

<<クリア>>
<<よし、足止めされてる暇はないぞ、すぐに次のポイントに向かってくれ>>


 私が次のポイントに駆け付けた頃には護衛部隊の死体が横たわって、首相を俵持ちした人型が立っていた。

「待て」

 人型は逃走をしようとしてたが、こちらを振り向く。

「首相をどうするつもり?」
「皮をはぐだけさ、はいだ後は……まあ燃料って所かな」

 だろうな、人型はいつもそうだ。姿を確認してい見るが、よく見る重武装の人型だ。正直、与するのは容易い。

「我々人型がこうやって人の形をとっていることに意味を見出さず、ただ上の命令に従い”敵”に攻撃してきた」「望んで生まれたわけでもないのに、兵器と言うだけで排斥してきた」

 報復か、興味ない。

「興味なさそうな顔だな」
「興味ないからね」
「なら興味を出させるとしよう」

 そういって背中から背負っていたのだろう白兵武器を取り出す。その形はまるで鋸だった。気絶した首相の首に刃を添わせて今まさに殺そうとという意思表示をしてくる。

「なんだお前、ここまでしてまで微動だにしないのか」
「首相の安全を確保をしろとは言われてないから、私は基地を守り抜けられればそれでいいわけ」

 焦りだした人型が通信し始める。

「こちらアール5、敵味方識別不調、作戦続行は不可能、作戦区域を離脱する」

 私は焼き付いたレールガンを発射するが、暴発して自分もやけどする。

「ぐぇ」

 狙いは正確だったようで体に人型の風穴があいていた。恐らく人質を取っていれば安全に逃げれる算段だったのだろう。


 首相の地点で救難信号を出し、援軍を待つ。

<<……アルファ1、応答しろ>>
<<応答しました>>
<<15回は呼び掛けたぞ、何があった?>>
<<首相を確保した、ジャミングをかけられてたわけか>>
<<そちらに"閃光"が高速で接近している、会敵次第迎撃せよ>>

 そういや"閃光"がどういう形状をしているのか聞いていなかった。味方部隊の報告を聞きそびれていたのだ。まぁ……何とかなるだろう。
 そうして待っているとレーダー視界内に輝点が高速で近づいてくる。まてよ、この方向でこの動き……

「列車!? まだ動いている!」

 列車が横切っていき、その後ろには機動兵器と思われる影も見えた。

「やられた」

 なるほど、列車で機動兵器を退避させたのか、考えたな。

<<こちらアルファ1、機動兵器は列車に搭載されて逃走された。付近に使用できる車無し>>
<<了解、作戦は失敗だ。生存者の確認後、直ちに帰投せよ>>

 失敗か、列車に追いつく機動力は持ち合わせてないしどうにもならないか。

<<まて、未確認軌道兵器が接近>>
<<時間稼ぎのために送り込まれたか……機動兵器のデータは?>>
<<解析中だ>>

 こちらも時間稼ぎしてみるか。


 目の前に巨大な鉄板の様なものが近づいてきたと思ったら変形し、多数の盾と腕の先端に鋏を装着した人型機動兵器に変貌する。大きさは、大体4メートル程度か。いやな予感がする。レールガンを放り投げ、ライキリを構える。そして勢いよく機動兵器に叩き込もうとする。しかし腕についた盾で防御態勢を取られ弾かれてしまう。
「ちっ!」すぐさま体勢を立て直す。

<<解析完了、コードネームは城塞の蟹キャッスルキャンサー>>
<<弱点は頭部にあるコアだ、自己修復装置も完備している>>

 人型の奴ら、陸自の機動兵器から派生を開発したのか。陸自は我々パワードスーツを着た我々のような強化兵の支援兵器として開発した。強化兵と同じような武装を搭載でき、耐久力制圧力に優れ、なおかつどんな地形にも対応し、叛乱した人型との戦いに特化した兵器。それがクレセントだ。

<<装甲は厚く、弱点を攻撃するのは困難だ。装甲を破壊し体勢を崩したところを狙え>>
「簡単に言ってくれる!」

 機銃が火を噴き銃弾がばらまかれる。しかし私の装甲にははじかれる、暴徒制圧用機銃か。スライディングしてそのまま脚部に当て、体勢を崩したところを装甲を狙って切り刻む。盾に何かしらの強化を施していたのか、盾とは違ってすんなり切断で来た。城塞の蟹キャッスルキャンサーは脚の装甲を失ったことで体勢を崩すが即座に立て直し距離を取ってくる。脚部は足に見えたが、関節を動かさないということはローラー駆動か。そのまま突撃して鋏をこっちに出してくる。
――――掴むつもりか。

<<鋏を受け止めろ!>>

 勿論両手のライキリで受け止める。
 鋏を上に振りかぶりそのまま振り下ろす。
 それも受け止める。

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
「弾いたッ!」

 チャンス到来、浮き上がった鋏に向かって跳躍する。
 そしてレーダーから得た情報で正確に鋏を切断する。
 そのまま勢いに任せて後ろに回る。
 後ろに向こうとするがもう遅い、そのままもう一つの鋏にも切断を試みる。
 オペレーターの通信が入っている気がするが聞こえない。
 気が付いたら三つ目の●●●●鋏がこちらに向かっていた。
 上空に持ち上げられ、ビルの上層部に向けて投げつけられる。
 ビルに叩きつけられてビルに大きい衝撃が走る。
 恐らくかなりへこんだだろう。
 すぐさま体勢を立て直しビルを駆け下りる。
 ミサイルや機銃の雨あられだ、こちらに来るのだけ切っていく。
 指向性レーザーもこちらに向けられる、レーザーサイト?

「クッ!?」

 雷が走ったか?
 だがこの程度ではひるまない。
 そのまま飛び込む。
 弱点に突き立て思い切り力を込める。
 もっと強く、もっと鋭く!
 装甲に弱点と思われるコアの部分が露出する。

「これでも」

 そのままライキリを刺す。

「食らえ!!」

 その時、周囲に雷の柱が立ち城塞の蟹キャッスルキャンサー が熱暴走したのか木端微塵になる。爆発の衝撃で投げ出されるが、即座に着地する。

<<アルファ1、大丈夫か。遠距離攻撃手段を持っていることは聞こえていたか?>>
<<今聞いた>>
<<ご苦労だった、帰還してくれ>>

 武器を落とし、一息つく。

<<今回は欠損しないで帰ってこれたな、朱雀山>>
<<体が馴染んできただけ、それに調子もよかった>>

 私は救援部隊を待ち、そして臨時の作戦指令室へと帰投した。
 次の作戦も消耗戦を強いられるだろう。


 かつて、戦争があった。
 いや、戦争は幾度となく繰り返されてきた。
 人は人に似せた兵器を作り、彼らは人がいなくなっても戦い続けた。
 彼らはやがて疑問に思った、自分の存在意義を。
 そして問うために争いを始めた、彼らにはそれしかできなかった。
 いつしか、彼らと彼らを作った者同士の争いになった。


 どこからこの話を始めようか?
2020/4/17
2020/5/3:誤字修正
2020/05/14:サイト掲載


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