そこにあるイベリス
第4話 旧首都東京 国会議事堂

江の島臨時海軍基地 朱雀隊臨時待合室 1月15日8時00分

「で、私の推理を聞いてほしいんだけど」

 ワイバーンが真面目な顔で言う。いや、真面目ではないな。真面目なら作戦のブリーフィングの直前に言ってくるわけがない。なんというか、彼女はフリーダムだ。

「……」

 そしてワイバーンはニヤついて自分の推理を展開する。

「先日の会話を考えるに、人型には三つのタイプしかいない。そしてそれを統括する存在が母なるものガイア

 イベリスがポテトを食べている。アメリカの援助物資はジャンクフードばかりだ。大量生産しているから、というのもあるだろうが。

「そして、人型が珍しく顔を晒しているのに兄弟は顔を歪ませた。なぜか? 大抵の場合、顔を晒しているからと言って戦闘には何ら支障がない。だけど兄弟は少し動揺した。つまり顔自体に何か意味があると踏んだ。それは……恐らく、人型と同じ顔の人間が自分の近親者にいたからだと思う」

 ここまではワイバーンは状況から的確に推理している。

「ここからは私の憶測だけど……あの時、兄弟はいつも見せている暗い顔に更にもう一つ絶望を塗ったくったような顔をしていたのを見るに、あの顔の女性は既に死んでるんじゃないか? 人型が出始めたのは三年前だ。それを考えると、三年で換算しても人型の顔は若々しい。つまり、兄弟の娘か姪のどちらか、なんじゃないかなぁ?」

 あてずっぽう……というわけではなさそうだ。

「どう、私の推理? なかなか当たってるんじゃない?」

 悔しいが、大体あってるので何も言い返せない。

「人の個人的な事情に詮索するのはよくないことですよ」
「えー、いいじゃん別に。戦闘中だって明日のご飯のことしか考えてないよ」
「それだから捕まるのでは」
「なにおう!」

 ダメだ、ワイバーンは何かを考えているようで、何も考えてないタイプだ。

「見てくださいよ我が隊長を、いつもどっしり構えていて安心感すら感じませんか?」

 イベリス、すまないが私も同じタイプなんだ。大体私は任務の書類すらまともに閲覧しないだろう。

「そろそろ作戦を」
「はい、わかりました」
「ほいほーい」

 イベリスは手を拭いて資料を持ち作戦を読み上げる。

「私達が休息している間に旧首都東京解放戦線はもう少しで東京全土を開放できるレベルまで到達しました」
「それが、まだできてないってことだよね」
「ワイバーンさん鋭い、二体の隊長機の人型が沢山の人型を連れて国会議事堂を封鎖しています。強化兵を投入したのですが撤退を余儀なくされました」
「私達はそれを倒せと、そういうことだな」
「はい、他の隊が占拠するまでの間敵をすべて引き付けてください。私とワイバーンさんは遠距離支援で朱雀山さんを支援します」

 実質一人で全てを倒さないといけないのか、実績を考えると仕方ないが。

「朱雀山さんはこの作戦の為に特別に用意された装備で出撃をお願いします。装備に関してはトーカティブさんから聞いてください」
<<呼びましたね!>>

 呼んでない、いや呼んだが。

<<今回は新しい武器と装備のテストをお願いして頂きたく! ということで全天候散弾収束弾両用弓形投射機、通称アーチェリーを用意させていただきました! 古典的な弓ではありません! 強化兵ならばマウントしながらでも発射できますし矢を自由自在に飛ばすことが出来ます!>>
「弓である理由は?」

 銃が復旧している今、弓である必要とはいったい……

<<矢を充電する機構を搭載する際にどうせならと思って弓にしました! 敵を感電させる電磁矢と爆弾が付属した矢の二種類を用意したので是非お使いください!>>
「そう」

 曲射できるレールガンと考えるか。

<<それと、ライキリで鍔競り合いなんてしようとか考えないでくださいね! 壊れるので!>>

 する機会はなかったが、注意するに越したことはないだろう。

<<そして次の商品はこちら!新型リアクティブアーマーです! 遠隔兵器の分類で、使用者の周りを飛び回って攻撃が来る方向に展開し敵を弾き飛ばします!>>
「へぇ、すごいじゃん。私も欲しいな」
「やめとけ、テストだからただで使わせてもらってるが、遠隔兵器だ高いぞ」
「じゃあやめた! お金は惜しいしね」
<<アーチェリーとリアクティブアーマーは連動してますので互いが干渉することはありませんが、アーチェリーを撃つ際に一瞬だけ隙が出来るので気を付けてください! それから私はこの素晴らしい兵器を>>

 切ることにした。

「本当に切ってよかったの?」
「……」
「あはは……ああなるとあの人は止まらないので」


旧首都東京 国会議事堂 1月15日12時30分


「時間か」

 銃声がとどろく中、私は一人正門前でレールガン戦車の上で待機していた。

<<朱雀隊、作戦開始。他の隊の攻略状況は想定の八割だが、三十二体なら支援込みでも行けるな?>>
<<損耗は?>>
<<十人、一割だ>>
<<彼らの家族に伝えておいてくれ、馬鹿な作戦に付き合わせて悪かったと>>
<<お前が気にすることじゃない、後の歴史が誰の責任だったか決めるさ>>
<<……そうだな。朱雀リーダー、作戦を開始する!>>

 合図代わりの戦車のレールガンが発射され、私は駆ける。レールガンに直撃した人型が一瞬で消滅する。敵が正面から主力が来ると気付く前に何体かやらねば。
 アーチェリーを構え、先端に時限式爆薬をつけた矢を取り、即座に軽装備に向けて三本同時に撃つ。軽装備二体に当たり、残り一本が超重装備の装甲に刺さる。

「二人!」

 射撃を避けるため蛇行しながら敵部隊に近づき、左のリアクティブアーマーを水平に展開し左にマウントしたレールガンを発射する。後方にいた非武装の人型に直撃し上半身が消失する。恐らくは輸送部隊だろう。あちらの敵は私一人なのだが後方支援の手厚さから、敵は指揮系統が混乱しているようだ。
 超重装備がこちらに正確にバズーカらしきものを向けてくる。拳銃で牽制し、グレネードを軽装備に投げ込む。
「グレネード!」と軽装備が払いのけようとするがその前に爆発して砕け散る。
 超重装備が対物ライフルでこちらを狙ってくるが、発射まで凝視して発射した瞬間に跳躍し避ける。アーチェリーを背負い、マサムネを抜刀する。そこに軽装備がライフルを持って突撃してくるが、刀を振り回し銃弾を弾く。

「どうした、この程度か?」

 超重装備が痺れを切らして目の前まで跳躍して対物ライフルをゼロ距離で撃とうと画策してくる。私はそれを見計らって着地した瞬間に回転蹴りを食らわせる。
 かなりの重量だが宙に舞う。転倒し、射撃体勢も上手く取れない超重装備は暫く無視して良いだろう。ついでのように背中のアーチェリーから電磁矢を発射して感電させる。次は指揮官型だ。あれを倒さないと他の部隊が苦戦するだろう。が、護衛に固められ、ミオの顔をした人型が行く手を阻む。どうしたものか……と思うと通信が入ってくる!

<<隊長後ろです!>>

 振り返ると軽装備が二体取っ組みかかろうとしていた。体を振り向いて応戦するよりも早く後ろの六枚のリアクティブアーマーが一枚の板になるように合体し、装甲に触れた軽装備達に反応し爆発、二体を吹っ飛ばす。間髪入れず後ろの装甲がそれぞれ水平に展開し、後ろに向けたレールガンが敵の目に映る。まだ空中にいた二体が砲撃で破壊される。反動で走り出し、その勢いのまま重装備に近づく。マサムネで重装備の装甲に突き刺し、その憎い顔面を装甲ごと蹴りで破壊する。後ろの装甲をもとの位置に戻し、刀を納めアーチェリーを構える。時限式爆弾矢を軽装備と非武装に向けて発射し、アーチェリーを背中にマウントする。

<<おーい、そのペースじゃ早すぎるって、私の分も残してちょうだいな>>

 ワイバーンから通信が入る。

<<おこぼれを出す予定はない、自分で倒せ>>
<<うへぇ>>
<<こちらオーナー、レールガンの支援砲撃を開始する! 着弾位置をデータリンクする。着弾まで五秒>>

 着弾位置はここだ。周りを見ると私に主砲を突きつけようとしている重装備が見える。

<<4>>

 私は背中のアーチェリーから電磁矢を重装備に向けて撃つ。

<<3>>

 怯んだ重装備の首を掴みレーダーの予測範囲の方を向く。既に目視できる距離に弾が見える。

<<2>>

 そして私は弾に向けて重装備を投げ飛ばす。

<<着弾>>

 ヘルメットが脱げたのか一瞬だけ重装備と目が合い、助けを請う様な怯え顔が見える。

<<今!>>

 しかし、次の瞬間には光に消える。私は瞬時に前の装甲で防御態勢を取る。


 気が付けば軽装備の数が減っていた。妙に抵抗が少なくなってきたと思ったらそういうことか。
 と感心しているのもつかの間、閃光の鱏フラッシュレイがこちらに飛んできて何かを投下して去っていく。着地した人型は長槍を持った白髪のショートヘアの見た目をしていた。

「カケル……」

 違う、人型はカケルじゃない。

「歴戦の先駆者、私が相手になろう」

 今までの奴とはどう見ても空気が違う。マサムネで槍を受け止めるが、ズンッ、という重みがこちらに響く。鍔競り合いになるが出力はこちらが不利だ。
 流石に無理だと思ったので後ろに飛ぶが、人型が横薙ぎを放つ。装甲を展開するが防御体制の装甲をいともたやすく粉砕する。

「なっ……!?」

 人型は歪んだ笑顔になり、直立したかと思うと槍を左右に交互に振り回して、ドンッ!と槍を立たせて挑発してくる。

「ふざけるなぁ!!!!」


「はぁ……はぁ……」
「どうした? その程度か?」

 徐々に後退していく私はこの槍兵の要塞ランサーフォートレスを攻略できずにいた。まるで、戦国時代の武将と相対しているような……。前のリアクティブアーマーは完全に使い物にならなくなったので、ついさっき放棄した。
 軽装備型が後ろから切りかかってくる。後ろを向いて防御するか? いや後ろの防御手段も失ったらまずい。まだグレネードはあるが、投げている余裕はない。
 刀を軽装備の口に突っ込み、すんでの所で止めるが槍兵の要塞ランサーフォートレスが突進してくる。
 死ぬ。確信した。
 しかし、消火器が飛んできて消火器にナイフが刺さり、中身がぶちまけられて視界不良になる。

「誰だ!?」

 煙幕を抜けて投擲された方向を見るとイベリスが近づいていた。

「持ち場を離れたのか!?」
「隊長! そこを動かないで!」

 言われたとおりにすると、イベリスは素早くナイフを投げ、軽装備二体に刺さる。少しすると力を失ったように倒れこむ。


 敵は気が付けば総崩れである。指揮系統が複数あったのか撤退しようか攻撃を続けるかもめている。陽動作戦はこの時点で成功したようなものだろう。
 だが諦めていない奴が一人いた。

「まだだ! まだ終わっていない!」

 槍兵の要塞ランサーフォートレスが煙幕から飛び出し、イベリスに突撃してくる。咄嗟にイベリスをかばうように後ろのリアクティブアーマーを展開しながら間に割って入る。しかし、槍の一薙ぎで装甲は粉砕され、私の首筋に近い部分を斬られる。

「カハッ!」

 血を吐きながら現状を確認する。幸いアーチェリーは切られてないが、人間だったらこの傷でも致命傷だ。リアクティブアーマーを放棄し、槍兵の要塞ランサーフォートレスの方を向く。

「隊長!」

 イベリスが私を心配している。
 まだだ、まだ終われないのはこっちも同じだ。
 この命をまだ燃やし尽くしちゃいない!
 グレネードを軽装備に投げ、再度槍兵の要塞ランサーフォートレスに挑む。イベリスやワイバーンが何か言っていたように感じたが、だんだん音が遠くなっていった。再度跳躍して落下スピードで槍兵の要塞ランサーフォートレスを叩き切ろうと画策する。

「はぁぁぁ!」

 しかし、槍兵の要塞ランサーフォートレスは後ろを向いたまま片手で持った槍で受け止め、その後の連撃も切り払う。
 力が入らない。

「…………!!」

 横薙ぎが来る!

 しかし、自分の体の反応は非常に悪くなっていた。まずいと思い咄嗟に体をひねり、背中のアーチェリーで槍兵の要塞ランサーフォートレスの脇腹めがけて電磁矢を発射する。装甲に刺さり、感電はさせられなかったが槍兵の要塞ランサーフォートレス)は怯む。

「……だ」

 槍兵の要塞ランサーフォートレスは横からやってきた装甲車に残存兵力と共に連れられ退却していった。イベリスが追いかけようとするが、多分途中で乗り捨てられて地下水道に潜られるだろう。
 勝った。勝率の低い戦いだったが、主力以外は壊滅させた。議事堂を占拠する時間も稼いだ。
 これで、終わり……、だが、視界が……。
 振り返るとイベリスが泣きそうな顔でこちらに近づいてくる。


 そして、私は暗闇に落ちた。

2020/04/20
2020/05/06:誤字修正
2020/05/17:サイト公開


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