そこにあるイベリス
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江の島臨時海軍基地 朱雀隊臨時待合室 1月15日8時00分 「で、私の推理を聞いてほしいんだけど」 ワイバーンが真面目な顔で言う。いや、真面目ではないな。真面目なら作戦のブリーフィングの直前に言ってくるわけがない。なんというか、彼女はフリーダムだ。 「……」 そしてワイバーンはニヤついて自分の推理を展開する。 「先日の会話を考えるに、人型には三つのタイプしかいない。そしてそれを統括する存在が イベリスがポテトを食べている。アメリカの援助物資はジャンクフードばかりだ。大量生産しているから、というのもあるだろうが。 「そして、人型が珍しく顔を晒しているのに兄弟は顔を歪ませた。なぜか? 大抵の場合、顔を晒しているからと言って戦闘には何ら支障がない。だけど兄弟は少し動揺した。つまり顔自体に何か意味があると踏んだ。それは……恐らく、人型と同じ顔の人間が自分の近親者にいたからだと思う」 ここまではワイバーンは状況から的確に推理している。 「ここからは私の憶測だけど……あの時、兄弟はいつも見せている暗い顔に更にもう一つ絶望を塗ったくったような顔をしていたのを見るに、あの顔の女性は既に死んでるんじゃないか? 人型が出始めたのは三年前だ。それを考えると、三年で換算しても人型の顔は若々しい。つまり、兄弟の娘か姪のどちらか、なんじゃないかなぁ?」 あてずっぽう……というわけではなさそうだ。 「どう、私の推理? なかなか当たってるんじゃない?」 悔しいが、大体あってるので何も言い返せない。 「人の個人的な事情に詮索するのはよくないことですよ」 ダメだ、ワイバーンは何かを考えているようで、何も考えてないタイプだ。 「見てくださいよ我が隊長を、いつもどっしり構えていて安心感すら感じませんか?」 イベリス、すまないが私も同じタイプなんだ。大体私は任務の書類すらまともに閲覧しないだろう。 「そろそろ作戦を」 イベリスは手を拭いて資料を持ち作戦を読み上げる。 「私達が休息している間に旧首都東京解放戦線はもう少しで東京全土を開放できるレベルまで到達しました」 実質一人で全てを倒さないといけないのか、実績を考えると仕方ないが。 「朱雀山さんはこの作戦の為に特別に用意された装備で出撃をお願いします。装備に関してはトーカティブさんから聞いてください」 呼んでない、いや呼んだが。 <<今回は新しい武器と装備のテストをお願いして頂きたく! ということで全天候散弾収束弾両用弓形投射機、通称アーチェリーを用意させていただきました! 古典的な弓ではありません! 強化兵ならばマウントしながらでも発射できますし矢を自由自在に飛ばすことが出来ます!>> 銃が復旧している今、弓である必要とはいったい…… <<矢を充電する機構を搭載する際にどうせならと思って弓にしました! 敵を感電させる電磁矢と爆弾が付属した矢の二種類を用意したので是非お使いください!>> 曲射できるレールガンと考えるか。 <<それと、ライキリで鍔競り合いなんてしようとか考えないでくださいね! 壊れるので!>> する機会はなかったが、注意するに越したことはないだろう。 <<そして次の商品はこちら!新型リアクティブアーマーです! 遠隔兵器の分類で、使用者の周りを飛び回って攻撃が来る方向に展開し敵を弾き飛ばします!>> 切ることにした。 「本当に切ってよかったの?」
銃声がとどろく中、私は一人正門前でレールガン戦車の上で待機していた。 <<朱雀隊、作戦開始。他の隊の攻略状況は想定の八割だが、三十二体なら支援込みでも行けるな?>> 合図代わりの戦車のレールガンが発射され、私は駆ける。レールガンに直撃した人型が一瞬で消滅する。敵が正面から主力が来ると気付く前に何体かやらねば。 「二人!」 射撃を避けるため蛇行しながら敵部隊に近づき、左のリアクティブアーマーを水平に展開し左にマウントしたレールガンを発射する。後方にいた非武装の人型に直撃し上半身が消失する。恐らくは輸送部隊だろう。あちらの敵は私一人なのだが後方支援の手厚さから、敵は指揮系統が混乱しているようだ。 「どうした、この程度か?」 超重装備が痺れを切らして目の前まで跳躍して対物ライフルをゼロ距離で撃とうと画策してくる。私はそれを見計らって着地した瞬間に回転蹴りを食らわせる。 <<隊長後ろです!>> 振り返ると軽装備が二体取っ組みかかろうとしていた。体を振り向いて応戦するよりも早く後ろの六枚のリアクティブアーマーが一枚の板になるように合体し、装甲に触れた軽装備達に反応し爆発、二体を吹っ飛ばす。間髪入れず後ろの装甲がそれぞれ水平に展開し、後ろに向けたレールガンが敵の目に映る。まだ空中にいた二体が砲撃で破壊される。反動で走り出し、その勢いのまま重装備に近づく。マサムネで重装備の装甲に突き刺し、その憎い顔面を装甲ごと蹴りで破壊する。後ろの装甲をもとの位置に戻し、刀を納めアーチェリーを構える。時限式爆弾矢を軽装備と非武装に向けて発射し、アーチェリーを背中にマウントする。 <<おーい、そのペースじゃ早すぎるって、私の分も残してちょうだいな>> ワイバーンから通信が入る。 <<おこぼれを出す予定はない、自分で倒せ>> 着弾位置はここだ。周りを見ると私に主砲を突きつけようとしている重装備が見える。 <<4>> 私は背中のアーチェリーから電磁矢を重装備に向けて撃つ。 <<3>> 怯んだ重装備の首を掴みレーダーの予測範囲の方を向く。既に目視できる距離に弾が見える。 <<2>> そして私は弾に向けて重装備を投げ飛ばす。 <<着弾>> ヘルメットが脱げたのか一瞬だけ重装備と目が合い、助けを請う様な怯え顔が見える。 <<今!>> しかし、次の瞬間には光に消える。私は瞬時に前の装甲で防御態勢を取る。
「カケル……」 違う、人型はカケルじゃない。 「歴戦の先駆者、私が相手になろう」 今までの奴とはどう見ても空気が違う。マサムネで槍を受け止めるが、ズンッ、という重みがこちらに響く。鍔競り合いになるが出力はこちらが不利だ。 「なっ……!?」 人型は歪んだ笑顔になり、直立したかと思うと槍を左右に交互に振り回して、ドンッ!と槍を立たせて挑発してくる。 「ふざけるなぁ!!!!」
徐々に後退していく私はこの 「誰だ!?」 煙幕を抜けて投擲された方向を見るとイベリスが近づいていた。 「持ち場を離れたのか!?」 言われたとおりにすると、イベリスは素早くナイフを投げ、軽装備二体に刺さる。少しすると力を失ったように倒れこむ。
「まだだ! まだ終わっていない!」 「カハッ!」 血を吐きながら現状を確認する。幸いアーチェリーは切られてないが、人間だったらこの傷でも致命傷だ。リアクティブアーマーを放棄し、 「隊長!」 イベリスが私を心配している。 「はぁぁぁ!」 しかし、 「…………!!」 横薙ぎが来る! しかし、自分の体の反応は非常に悪くなっていた。まずいと思い咄嗟に体をひねり、背中のアーチェリーで 「……だ」
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2020/04/20 2020/05/06:誤字修正 2020/05/17:サイト公開 |