そこにあるイベリス
第5話 旧首都東京 電波塔跡

国会議事堂 朱雀隊臨時待合室 1月18日12時00分

 隊長が倒れてから三日が経ちました。未だ起きる気配がなく、私たち朱雀隊も作戦に参加することが出来ずにいました。

「イベリス、ティッシュ取って」
「自分で取ってくださいよ」
「いやぁ、ちょっと兄弟の経歴を調べてた」
「何かわかったんですか?」
「朱雀山円香、四十三歳現在独身、ライジングゼロ社に勤めて二十一年の大ベテラン、兵器開発部門に十八年勤めて強化兵及び機密兵器の開発に従事する」
「機密兵器?」
「強化兵のさらに上を行く兵器だったらしいよ、今は研究機関が凍結してこれ以上の情報はない」

 私達強化兵の上を行くものか……。

「話を戻すと、新人歓迎会で男三人を刑事告訴し、その後三人の娘を出産、カケル、ミツル、ミオと名付けられてるけど、うわぁ、これは見たことある顔だね」

 横から写真を見ると、確かに覚えのある顔でした、どれも人型の顔そっくりです。

「で、初の人型暴走事件で最初に殺されたのがこの三人、それ以降兄弟は自ら強化兵の制式配備に志願して現在に至るっと」
「隊長にコードネームがないのは何故なんでしょうか」
「ないわけじゃないよ、ただ社内では初の制式強化兵だし、元々は兵器開発部門にいたのもあって、昔馴染みが本名で呼んじゃうんだよね、兄弟は気にしてないけど」

 そうしているともみあげを長くしたような髪型の中学生くらいの女性がとてとてとこの部屋に入ってきて書類を私に渡してきました。

「私に?」

 こくりとうなずいてまたとてとてと部屋を出ていきました。

「イベリス、内容は?」
「あ、次の作戦書ですね。ってえぇ……」
「え、なになに? ってうわぁ」


旧首都東京 港区 1月18日14時00分

「無理無理無理無理!!」

 私達は上空から発射される大型ビームを走りながら避ける羽目になりました。

「無理ではない、ライフルで電波塔の人型を攻撃すればすぐだ」
「だからそれが無理だって言ってるんだろ犬っころ!!」
「犬ではない、狼だ」
「変わらんわ!!」

 先ほどから私達と並走しながらワイバーンさんと会話しているのは従順な狼オービディエントウルフ、トーカティブさんが残忍な戌サベージドッグの頭脳にあたる部分だけをサルベージして新しいボディを与えた黒い狼さんです。背中には機銃二丁とレールガンを乗せて、四脚故の機動性を持った機動兵器で、分類上は小型戦車になるそうです。

「っていうかオペレーターとかいないんですか!!」

 私が質問すると、狼さんは答えます。

「オーナーは試作兵器試運転強化兵朱雀隊隊長フレスベルグの専属オペレーターだ、お前たちにはオペレーターは今のところ配備される予定はない、それにオーナーはフレスベルグの連日の出撃に合わせてサポートしていたためフレスベルグが起きるまで休暇を申し付けられた」
「長々説明ありがとう!! 人材不足かッ!!」

 ワイバーンさんが吠えた所でビームの雨が止みます。
 急いで物陰に隠れ対策を協議します。

「作戦の概要をもう一回確認して良いかな?」
「いいだろう。旧日本電波塔跡に建てられた対空対地対艦粒子兵器幾千の太陽サウザンドサンズの攻略だ。援軍として私が朱雀隊に加わることになった。参加部隊は朱雀隊のみ、損耗は既に十の部隊を超えている」
「たった一人の機動兵器が心強い援軍ねぇ」
「……旧首都東京を制圧する最後の障害が旧東京国際空港とここだ。先日までの作戦で使われてなかった理由は恐らく電波塔周辺で飛んでいる反射板の配備が遅れていたせいだろうな。因みに撤退はできない。先ほど輸送車との連絡が途絶えた。フッ、仮に作戦が成功しても帰りは歩きだな」
「なるほど、完全に理解した」
「とにかく、電波塔を登らないことには話が始まりませんよね」
「エレベーターは封鎖されている。空からも反射板で張り巡らされた防空網を抜けるのは困難だろう」
「わおぅ、約600段を登れと?」
「ああ、だが手薄ではないだろう、人型が待ち受けていてもおかしくないな……上だ!」

 見ると反射板がこちらに向けて飛んでいました。

「長話しすぎたね、走るよ!」

 物陰から出て、電波塔に向けて走ることになりました。直後甲高い音が鳴ったと思うと自分たちがいた場所にビームが降り注ぎます。

「コンタクト!」

 壁を形成するように人型が布陣してきました。すると狼さんは建物を伝いながらレールガンを連射し陣形に穴を開けます。

「ワイバーンさん!」

 この時の為とばかりにワイバーンさんはライキリを構えて横薙ぎしました。

「邪魔邪魔!」
「四枚こっちを狙っているぞ」

 私は事前に背負ってきたカノンをエンデュミオンで持ち、右の反射板に向かって打ちます。

「二枚破壊!」
「左だ、避けろ」

 私とワイバーンさんは左の建物に隠れビームをやり過ごします。狼さんはビルの上からレールガンで正確に反射板を破壊していきますが、数が減る様子が見えません。

「反射板のばらまきすぎだな、反応速度が遅い」
「電波塔には遠隔兵器を操作している人型がいるってことでしょ! それってクールじゃん!!」
「くーる?」

 ワイバーンさんは両手で指をさしながら笑います。

「カッコいいってことだよ狼君」
「いやそれはわかるが……???」
「無駄話してる場合じゃないですよ、走りましょう!」

 電波塔の入り口が見えるところまで来たところで、戦車が道をふさいでいるのを確認します。上空にビームを撃っていて、これでビームの数を増やしているのでしょうか。

「戦車の数は四台だ、電波塔の進路を塞ぐように展開している」
「分かった、なます切りにしてやる!」
「援護します!」
「反射板を頼んだ!」

 二台の戦車がこちらに砲身を向け、反射板が空中に大量に展開される。カノンじゃ敵の数が多すぎる。

「先ほどの人型から奪った武器だ、受け取れ」

 汎用散弾砲、スプレッダー!
 エンデュミオンで受け取り、発射版に向かって撃ちます。何発か撃つと七割の反射板が消えます。その間にワイバーンさんは砲身をライキリで叩き切り、発射不能にします。

「よし、じゃない!!」

 戦車はその重量を生かして轢くために突進してきます。ワイバーンさんは飛び上がり、戦車が下を通るのに合わせてライキリを突き立て二分割します。ワイバーンさんの後ろ……私の目の前で戦車が一台爆発します。

「まず一台」

 私はスプレッダーをエンデュミオンから落としカノンに持ち替えてもう一台の戦車の向けられた砲身に撃ち込みます。粒子が拡散した砲身は爆発し、二台目も破壊します。後ろにいた戦車が砲身を向けながら、私に向けて突進してきます。
 私はエンデュミオンで地面を思いっきり殴り、後ろに下がります。戦車が私がいたところを通ろうとした瞬間、水飛沫が上がり戦車の弱い部分から分割されます。
 最後の戦車も二台目と同じようにカノンで砲身を破壊し一件落着です。

「無茶するなぁ、これどうするの?」
「工作兵さんに任せます。ここを制圧に成功すれば一日で復旧できると思います」
「君もなんだか兄弟に似ているなぁ」
「さあ、運動の時間だ」
「マジで登るの? エレベーター使わせてくれよぅ」

「マジで登った……もう無理ー!」
「大丈夫ですか、これ登り切ったら会敵ですよ」

 八割を超えたところでワイバーンさんが音を上げました。

「敵の数が少ないな。この分だと展望台に敵が密集していることになるが」
「室内戦はあまり経験はないですし、開けたら集中砲火の可能性が高いですね」
「私ここで休んでていい?」
「いいですよーこれで静かになりますし」

 私は姿勢を低くして扉を少し開け様子を見ようとしますが、沢山の銃撃に扉がさらされます。扉の風通しがよくなったところに持ってきた対人型用グレネードを投げ込みます。

「グレネード!」

 慌てて処理しようとする人型の足音が聞こえたところで大きな雷の音が聞こえたと思うと大量の倒れる音が聞こえ、静かになります。私は展望台に入り、人型が動かないか一体ずつ確認します。

「クリア」

<<対人型用グレネード、通称ネメシスを使いましたね! 人型は電気が弱点なことに着目した兵器で大体一フロアの人型はこれで一発です! 使い方は……もう知ってましたね! 注意点としては支援機動兵器にも感電してしまう可能性があるので強化兵のみの運用が求められますがドアを避雷針代わりにするのは考えましたね! 私はこの兵器の素晴らしさを後世に伝えたいのですが、人型が一体もいなくなった世界にならないことには話が始まりませんね! もっと早くこれが生まれていれば三年も日本が戦場になることもなかっただろうと残念な気持ちでいっぱいです! なので私はこれからもどんどん兵器を作っていくのでご期待ください! 開発部でした!!>>

 言うだけ言って通信が切られてしまいました。

「めっちゃ喋るね彼女」
「はい、初めてエンデュミオンで装備できる武器を手に入れる度にこれくらい解説されますよ」
「兄弟がなんで途中で切るのかなんとなくわかった」
「反射板の動きが止まった、ここの人型が反射板を操作していたようだな」

 メインデッキ二階への階段を見ると二階にいた人型がこちらに降りてくる音が聞こえる。私は人型の武器のライフルのロックを解除し構えます。

「コンタクト!」

 あとは降りてくるのを撃っていくだけです。

幾千の太陽サウザンドサンズの動きが停止した」
「操作している人型がいなくなってしまったせいでしょうか」
「反射板の動きも完全に止まった、作戦は成功だが、どうする隊長代理イベリス」
「一応上も見ておきましょう、エレベーターは動いてます」
「えっ、まだ上行くの」
「行きますよ、エレベーターなんだから休む必要はないですね?」
「はいはい、わかりましたよ」

 トップデッキは機械がたくさん置かれていて、何より窓が全て取り外されていました。

「成程、トップデッキの窓を外して三百六十度全てを砲門としていたのか」
「これも破壊した方がいいのでしょうか」
「するったって風が吹き抜けてる中壊すなんて難しくない?」
「そこでこのネメシスの出番ですね。あわよくば回路を破壊できるかもしれない。私達が乗るエレベーターが閉じる瞬間に投げますので狼さんは先に下に降りていてください」
「了解」

 そう言って狼さんがエレベーターに乗って降りていきます。

「イベリス、エレベーターを待ってる間に私の推理を聞いてもらってもいい?」
「なんですか」
「さっきの兄弟の資料……出産記録が三人しかなかったんだ。だけど戸籍では五人家族ということになっている。養子を貰ったって記録もないし、そもそも四人も子供も要らないだろう、家庭事情もあるだろうけど……それと、私達に命令書を持ってきた少女」
「ああ、たまに基地で見かけてましたね」
「あの少女は朱雀山三波……兄弟の四人目の娘だ」

 驚いた、こんなに近くにいたなんて

「出産記録も養子記録もない謎の少女……ここからは憶測だけど、機密兵器が彼女だったとしたら? だとしたらさらに仮説が生まれる。彼女が人型だったとしたら、つまり人型を作っていたのはこの会社自身だったとしたら、これはとんでもないマッチポンプってならない? うーん、ありえそうだ」
「仮説で話を進めすぎです」
「じゃあ、話を戻そう、朱雀山三波なんだけど、コミュニケーション障害と引きこもりが合わさって学校に行っていたという記録は一切ないだってさ」
「謎の少女ですか……」

 ワイバーンさんは私に指をさす。

「アニメみたいじゃん?」

いつか どこか

 私は目を覚ます。

「ここは……どこだ?」

 この電車は……三波を連れて遊園地に行ったときの帰りの電車だ。
 そうか、私はまたこの夢を見ているのか。
 いつまで経っても辿り着かない電車。私は帰らなければ娘達が生きていると思っていつまでもこの電車に乗る。
 どこに行くかもわからない環状線。いや、どの駅にも止まらない。止まらないからこそ、先に進むこともない。私の時はあの時から止まったままなんだ。
 気にしてはいなかった。だけどもう少し趣味の良い夢が見たかった。
 夜明けはいつ来るだろうか……いや、奴を殺さないと、私の夜明けは来ない。例えこの身が朽ちようとも殺さなければならない奴がいる。奴がいなければ、死ななくてすんだのに。貴方達が死ななくてもよかったのに……。
 死んでほしくなかった。ただ生きていてくれればよかったのに。
 私は……。

2020/04/20
2020/05/03:誤字修正
2020/05/18:サイト掲載


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