<<駄目だ!機動兵器達が言うことを聞かない!>> <<大変だ!空港の電源が落とされた!!>> 「さて、出番ですよ。朱雀山三波君」 「……」
旧首都東京 ライジングゼロ日本支部跡サーバールーム 1月23日15時40分
「行くぞ!」 「了解」「あいよ」
私達はサーバールームから出て、通話をかけながら階段を駆け下りる
<<トーカティブ、居るか?>> <<いますよー! どうかしましたか!?>> <<用意してほしいものがある、車と飛行ユニットを>> <<分かりました! 飛行ユニットの使い方は……! 貴方が作っていたものですし必要ありませんね。三波ちゃん、救出しに行くんですね?>> <<ああ、やはりあの子には人並みの幸せが必要なんだ。コンピュータとしてじゃない、誰かの敷かれたレールじゃなくて、自分が敷いたレールの上を走ってほしい>> <<……もう止めませんよ、飛行ユニットはいじってなければ開発部に残っているはずです>>
よし、これで閃光の鱏に立ち向かえるな。
<<車は手配しました、5分で到着しますよ>> 「フレスベルグ、この先はどうすればいい」 「飛行ユニットを車に持ち込んだのち、エリュシオン社に向かうまではいいが、母なるものがそこにいる確証はない」 「ふむ」 「だが、ここを拠点にしなかったということは奴は勝手知ってる武器を調達したかったのだろう、そしたらもうあいつが生まれたエリュシオン社しかない」
ワイバーンが指をさして言う
「わお、いいねえそれ! ゲームのラストダンジョンって感じがしてさ」
開発部に出向いてみると、開発中だったものが手つかずで残っていた。
「フレスベルグ、飛行ユニットらしきものを発見した」
飛行ユニットは足に装着する円状のユニットだ。短時間なら空を自由に飛べる……筈だ。 なにぶん試作品なうえに放置されていたので、どこまで使えるかは信用できない。だが私達はそんな不安定なものにすら縋り付こうとしてた。
「よし、二つあるな、これなら私とワイバーンで行けるだろう」 「えっ、私が乗るの!?」 「今はお前しかいないだろう」 「イベリスが合流したら、彼女を乗せるとかじゃダメ?」 「……お前はお前のできることをしろ。スプライトだ、大事に使え」 「分かったよ、兄弟」
二人に向き直り、即席のブリーフィングを行う。視界にマップを広げ、話を始める。ここから先、仲間と会話できる時間はないだろう。
「二人とも、聞いてくれ。イベリスが合流できるポイントは大体エリュシオン社と弊社の大体真ん中のあたりだ。そこまでで何かが待ち構えている可能性が高い。母なるものの戦力は未知数だ。今までで一番強い人型と考えてもいい。つまり、一般兵による援護は一切期待できないということだ。私達強化兵のみで戦うしかない。体制は万全ではないが、事は一刻を争う。作戦目標地域に於いての母なるもの破壊、全員の帰還をもって作戦終了とする。必ず生還しろ、それ以外は許可できない」 「うん、皆の幸運を祈るよ」 「フッ、悪い奴らばかり揃ったものだ」 「悪でも何でもいい、私達はこんな戦いは終わらせたい、そしてこの世界をバラバラにした本当の悪を知っている。今は……それでいいんじゃないか?」
私はもう迷わない。奪われた娘と自らの贖罪の為に戦うだけだ。
「出撃」
私達はトーカティブが用意してくれた装甲車に乗り込み、ビルを後にした。
旧首都東京 荒野 1月23日15時50分
無人運転で動く装甲車だが、人影を検知して停止する。
「待っていたぞ、人類」
槍兵の要塞か。 私は装甲車から降り、ある程度距離を取る。
「わざわざ単機で来たのか」 「ああ、私は生きる理由を見つけた」 「人型が生きる理由を見つけたのか。面白い、言ってみろ」
どうせ前の人型と同じように人間は無価値というのであろうか。 槍兵の要塞ランサーフォートレスは本を取り出し言う。
「武によって無念無想の境地に立つこと」 「なに?」 「私はこの三年、この槍一本で死合ってきた。しかし、頭の奥底では常にバグがあった。人間はそれを迷いと呼ぶようだが、私はこの理解できないバグを理解するために人間を理解しようと思った。私は母なるものの理念、理想には興味がない。ただ、戦えればそれでよかった。だがこの本に出会った。私の迷いが何なのかわかったのだ。そう、対等な条件、対等な腕前、対等な勝負……私は、強者に会いたかったのだ。人類には感謝している。私のバグと向き合うことで私は更に強くなれた。雑念がなくなり、思想に興味のないこの槍で、私はどこまで行けるか確かめたい」
今までで一番面白い存在価値を見た。 というより、こいつはイレギュラーすぎる。生きる時代間違えてないか? 要はこいつは戦いたいわけだが……。
「どうする、フレスベルグ」 「私がやる」 「わお、一騎打ちかい? クール!」
私と槍兵の要塞は道路からそれて荒野に進む。槍兵の要塞は気味の悪い笑顔になる。
「やるのか、フレスベルグ」 「ああ、手出しは無用だ」 「じゃあ、私が立会人になろう」
槍兵の要塞はにやにやしながら言う。
「こういうのを待っていた」
私は斬機刀を抜き、槍兵の要塞は槍を構える。 夕焼けの空に風が吹いている……。
「お前、名は?」 「名前?」 「名前がないと武士とは言えないだろう」 「そうだな……黒鷲だ」 「私の名前は朱雀山円香」 「いい名前だ」 「お前もな」
そして、ウルフの掛け声で試合は始まる。
「いざ、尋常に」
私は瞳を閉じ……そして開く。
「勝負!」 「……いくぞ」 「参る!!」
槍は刀と比べてリーチが長い、しかし純粋に戦闘経験三年である点は同じ。 それに達人の間合いというのはリーチすら感じさせないだろう。 お互いに距離を探り合い、中々近づけない。 隙が無い。
私と黒鷲はお互いに跳躍し、刃を交える。 速度ではこちらが勝る、だが力では黒鷲の方が上だ。 着地し、振り返るころには槍がこちらに迫っていた。 頭を下げ直撃を避けるが、すかさず蹴りを叩きこんでくる。 手の甲で抑え、火花が散る。 横に吹き飛ばされるがすぐに立て直す。 納刀し、エネルギーをチャージする。 黒鷲は警戒して距離を取る。
抜刀し、雷を発生させ黒鷲の下へ飛ばす。 しかし黒鷲は槍を地面に刺して手放し後退する。 避雷針代わりになった槍が雷を吸い、霧散する。 黒鷲が槍を抜き、再度隙の探り合いになる。
黒鷲が横に振りかぶり、私はその隙を突いて突撃する。 だが横薙ぎによって衝撃波が発生し後ろに吹き飛ばされる。 ジャンプし、溜めの時間を作らせないように空中蹴りを浴びせる。 黒鷲はとっさに回避し、体勢が崩れる。 すぐに横に薙ぐが、槍で防がれてしまう。 黒鷲は横にステップし上に払ってくるがこちらも横にずれてカウンターとして叩き切る。 しかし、槍から片手を放し、片手で白刃取りをしてくる。
驚いた私は即座に後ろに下がるが、その隙を突いた黒鷲は槍を私の腹にめがけて突こうとしてくる。 咄嗟に斬機刀で防ぐが、四回の衝撃が腕にかかる。 一突きに見えたが、高速で四回も突いてきていた。 たまらず、後ろに下がる。
またも探り合いになるが、今度は黒鷲から突撃してくる。 私は槍をすんでのところで躱し、蹴りを腹に叩きこみそのまま打ち上げる。 空中に打ち上げられた黒鷲を跳躍し切りかかるが、槍のあらゆるところを使って防いでくる。 お互いに着地し、黒鷲は横薙ぎをしてくるが頭を下げて回避する。 しかし、槍の柄の部分を体に叩きこまれて吹き飛ばされる。 即座に態勢を整えるが既に黒鷲が近づく。 いくらか剣戟を行い、私が蹴りをするとその態勢の崩れを狙って拳で腹を殴られる。 なんとか耐え切りかかるがやはり片手で白刃取りされる。 しかし、今度はなんとか耐えきり、黒鷲の装甲を少しだけ傷を付ける。
斬る、弾く、払う、避ける。
私と黒鷲はお互いにエネルギーを武器にチャージする。 そして雷と嵐がぶつかり合う。 黒鷲はバク転して後ろに下がり、嵐に身を任せて先程よりも速い突撃をしてくる。 避けはするが、こちらに振り返りもう一度突進してくる。 今度は避ける時に同時に切りかかるが、黒鷲は槍から片手を離し手の甲で刀身をそらす。 三度目の突撃には少し体をそらして、腹に蹴りを加えてそのまま後ろに吹き飛ばす。 私も反動で後ろにステップするが、そのころには嵐も収まっていた。
私は思い切り斬機刀で虚空を切り衝撃波を発生させ、まだ態勢を崩している黒鷲に当てる。 更に後ろに吹き飛ぶ黒鷲。 黒鷲はすぐに体を起こし、槍で地面をえぐりそのまま飛ばしてくる。 岩盤が飛んでくるがすぐに一刀両断する。 お互いに視界から消えたことでお互いに突進する。 切りかかるもすぐに弾かれ、払われるがそれを弾く。
幾度かの剣戟の後、先に音を上げたのは意外にも黒鷲の方だった。 少しの呼吸の乱れを察知して私は剣の柄で槍を弾く。 ガードを弾かれた黒鷲は後ろに下がり、跳躍して槍を叩きつけようとしてくる。 私は少し後ろに下がりながら切りかかり、頭の装甲を破壊する。
白い髪とカケルの顔の上半分が露になり、私は一瞬怯む。 違う、黒鷲はカケルじゃない。
そこを突いて切りかかる黒鷲に、私は刀で防ぎ鍔競り合いになる。 弾かれ、互いに弱点が露になる。
ここからは一発勝負だ。 私は黒鷲の槍を持つ手に向かって切りかかり、手の装甲を破壊し更に槍を手放させることに成功する。
「しまっ……ッ!」
槍が空を舞い、私は剣を構えなおす。 そして、バッテリーのある腹に向けて斬機刀を刺す。
「これで終わりだ!!」
片膝をつく黒鷲。黒鷲は腹から出るバッテリーらしき液体を手で押さえながら、そのまま後ろに倒れこむ。そして目から光が消え、装甲の光も消える。 私は刀の液体を払い、納刀する。
「凄まじい戦いだったね、兄弟」
誰も彼もが言葉を失い、やっと口を開いたのはワイバーンだった。 風が泣いている。
「機能停止を確認、勝負あり。勝者、フレスベルグ」
ここまでデキる人型はもういないだろう。強者と巡り会えたことに満足しながらも、私は寂しさを感じていた。 私は槍を拾い、見る。どうやらロックがかけられていて、高周波を流せそうにない。
「ワイバーン、解除できるか」 「出来なくはないけど、それを使うつもりかい?」
ワイバーンに槍を放り投げる。
「ナーイスキャッチ」
暫く空中に現れたキーボードを叩くが、解除できそうにない
「うーん、これは特殊な条件で解除できるもののようだ」 「そうか」
無理だとわかった以上、持っていく必要はないが……
「フレスベルグ、時間をかければ出来るかもしれない、私が持とう」
そう言って尻尾で槍を掴み、背中に乗せる。
「よし、時間がない。エリュシオンに突っ込むぞ」
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